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『作詞少女』感想 これは創作活動をしている全ての人に読んでほしい

作詞少女~詞をなめてた私が知った8つの技術と勇気の話~

「作詞について教えてくれるライトノベル」という独特の内容で話題になった「作詞少女」。

 

作詞って創作活動の中でも何ともいえない微妙な立ち位置にありますよね。敷居の高いイメージがある作曲と違い扱う素材が「日本語」という得体の知れてるもので、なおかつ膨大な文章の集まりである小説と違って短めの文量でできてます。

 

だからこそ、本のタイトルにもあるように「なめ」られがちな分野ではないでしょうか。名作曲家と言われると素直に凄いと感じるけど、名作詞家と言われるといまいちピンとこない人も多いと思います。

 

この本は作詞初心者に向けた技術書であると同時に、あまり深く語られることの少ない「作詞」という行為がどういうものなのか分かりやすく物語形式で解説してくれるライトノベルです。

 

初っ端から作詞についての認識を改めさせられて、「作詞ならなんかできそう」と侮る気持ちを覆してきます。そして後半では、さらにその「なめ」た精神がへし折られてグチャグチャに破壊される衝撃が待ってます。

 

「作詞ならできそう」と思っている初心者はもちろん、僕のように自作曲を作って音楽活動をする上で見よう見まねでなんとなく作詞に触れてきた音楽クリエイターは揃って心をボコボコに叩き直されたでしょう。Twitterでも後半の展開に打ちのめされた音楽家たちの阿鼻叫喚が見られました。

前半:作詞の準備や基本的な技術などの解説

前半で展開されるのは、教則本らしい技術指南です。作詞を始める前に必要な準備、事前に何を調べ、どんなふうに思考してそれを整理し、どんな考えで言葉を選んで実際に歌詞を組み立てていくのか、という基本的な作詞の技術が、女子高生でありながらプロの作詞家・詩文によって語られます。僕たち読者はそれを作詞初心者の主人公・悠の視点で学んでいくことになります。

 

ここら辺はごく普通の技術書らしいお話です。作中で語られるテクニックや考え方は素直に参考になるものばかりで、僕も作詞をする身として勉強になりました。

 

ただ、作詞について語られる中でも、詩文に隠された影のようなものがちらほら見え隠れします。その陰の正体は、物語の中盤、第9話から一気に明らかになっていきます。

 

後半:創作をするということへの心がまえ

第9話からの展開は圧倒的です。前評判からだいぶ覚悟して臨んだつもりでしたが、まさか作詞の技術書がこんなに心を抉ってくるとは思いませんでした。253ページの14行目から空気がスッと冷たくなるのが分かりました。

 

そこからの話は凄まじいです。心を直接握りつぶしてくるような容赦ない表現の数々で、言葉を作ってものを生み出すというのはどういうことかを思い知らせてきます。決して作詞に限った話ではなく、ここで語られることはあらゆる創作に応用できる「作家という人間としてのあり方」そのものです。

 

それなりになんとなく表面の整ったものではなく、誰かに響くものを作りたいと思ったらここまでの心構えがないといけないのか、と打ちのめされました。自分に全くできてなかったとは思いませんが、この領域に達してたかと聞かれると自信をもって頷くのはとても無理です。自分がまだどれだけ甘かったか思い知らされます。

 

そしてこのショックを「もっと早く知っていたかった」とも思いました。僕は今23歳ですが、もし10代のときにこの本があったなら、と思わずにはいられません。無駄な愚痴だとは分かっていても、10代でこの言葉をぶつけられてたらきっと人生が違った、と本気で感じてます。

 

そんなショックを受けたと同時に、しがない一人の創作者としての抑えきれない欲求も感じました。「この領域まで行きたい」と思いました。この世界に片足の先程度でも突っ込んでいたおかげ、何の臆面もなく「普通じゃなく」なりたいと思えました(意味はこの本を読めば分かります)。

 

『作詞少女』には技術だけでなく、創作へ取り組む姿勢の根幹に関わる学びをもらったと本気で思ってます。

 

まとめ

記事タイトルでも記事中でも書いてるように、この本は創作活動をしている人なら誰もが読む意味があると僕は思います。

 

物語の登場人物の言葉にこれほどまでに深くクリティカルに刺されたのは初めてかもしれません。それほどの衝撃を受けたのも、自分が創作活動をしている身だからなんでしょう。

 

一生手元に置いて定期的に読み返したい本です。

 

ちなみにこの本は、同じ作者の仰木日向さんによる「作曲少女 平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話」の続編として発売されています。ストーリーに直接のつながりはありませんが、「作曲少女」の方も読んでるとニヤリとできる部分もあります。

作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~

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シリーズの表紙イラストと挿絵を務めてるまつだひかりさんのガールズバンド漫画もおすすめです。

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