有川浩さんといえば、今日本で一番売れてる小説家の一人ですよね。「図書館戦争」に「植物図鑑」、「阪急電車」など、ドラマや映画での実写化にも定評がある人気作家です。
そんな有川浩さんの作風は、「恋愛ストーリーが得意」というイメージの方が多いと思います。実写化された中でも「日常を舞台にした笑いあり涙あり恋愛ありのドラマ」という作品が多いですよね。
ですが有川さん、元々は「図書館戦争」シリーズで見せたようなミリタリー要素バリバリの作風で知られてました。特にデビュー当初の作品は陸・海・空それぞれの自衛隊がテーマの本格SFで「自衛隊三部作」なんて呼ばれてます。
というわけで、有川浩さんの初期代表作「自衛隊三部作」をそれぞれ紹介します。
自衛隊三部作
「自衛隊三部作」は、有川浩さんのデビュー作とその後の2作品をまとめた総称です。それぞれ陸上自衛隊、航空自衛隊、海上自衛隊が大きく出てくる作品で、「三部作」とありますがストーリー的にはつながりはありません。
自衛隊にスポットが当たった作品ということもあって内容はけっこう複雑な部分も多くて、「図書館戦争」や「空飛ぶ広報室」の話が難しい部分が続くような感じです。その一方で、有川さんらしいベッタベタに甘い恋愛描写もしっかり挟まれてます。
塩の街
「塩の街」は三部作の陸上自衛隊編で、有川浩さんの記念すべきデビュー作でもあります。
ライトノベルの大手・電撃文庫の新人賞を受賞して出版されたので、ジャンルはいわゆる「ラノベ」になります。その後ハードカバーとして出版されて、さらには角川文庫から発売されなおすという珍しい経歴を辿った作品です。
宇宙から巨大な塩の結晶が世界各地に飛来して、それによって「体が塩の結晶になって死んでしまう」という奇病が蔓延し出した日本が舞台の文明崩壊系SF小説です。作中では死者が増えすぎて日本政府も機能しなくなって、治安も壊滅寸前になった日本が描かれます。
陸上自衛隊の奮闘ももちろんですが、それにも増して「元自衛官の主人公」と「彼に偶然命を救われた少女」のじれったくてベタ甘な人間関係にスポットが当たります。
しっかりミリタリーSFしながらも「あなたがいてくれれば世界なんてどうでもいい」的なお話も展開される、いわゆる「セカイ系」なストーリーです。「最終兵器彼女」なんかが近いんじゃないかな。
恋愛描写の甘さはまさに「活字で見る少女漫画」です。個人的にはこういう話大好きだけど。
電撃文庫版とほぼ同じ内容で、登場人物たちのサイドストーリーも収録された角川文庫版がおすすめです。

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空の中
こちらはタイトルに「空」とある通り、航空自衛隊にスポットが当たった作品です。
高知の田舎の海辺で謎の生き物を拾った少年少女と、突如出現した直径数十kmもの巨大知的生命体とのコンタクトを果たす航空自衛隊の人々のストーリーが並行して描かれます。
徹底的なリアリティと説得力で理詰めのストーリーが展開される「ミリタリー作家」としての有川浩さんの色と、ひと夏の不思議な体験をノスタルジックに描くジュブナイル小説のようなみずみずしさが両立された作品です。
個人的には三部作の中で一番好きです。現実的な制約や世論に翻弄される自衛隊にやきもきして、若くて未熟で無鉄砲な少年たちの心情にやきもきさせられて、最後の切ない展開で泣けます。
有川浩さんでおすすめの小説教えてと言われたらまず間違いなくこれを推します。有川浩さんの作品の中で一番実写化してほしい作品です。マジで山崎貴さんとかが撮ってくれないかな。
海の底
海上自衛隊がテーマの「海の底」は、「突如海中から巨大なロブスターのような甲殻生物が大量上陸して街を襲う」というまさかのモンスターパニックです。
運悪く横須賀で自衛隊祭が行われてる会場がモンスター襲撃の始点になって、潜水艦乗員の2人の自衛官が逃げ遅れてた子どもたちを連れて艦内に退避して閉じ込められてしまいます。
その一方で、通報を受けて出動した警視庁機動隊の隊員たちは「巨大なエビとの肉弾戦」というかつてない戦いに挑むことになります。
逃げ腰の政府、好き勝手に事態を引っ掻き回すマスコミなど、有川さんの「いかにも現実で起きそうな日本社会のダメダメ描写」が特に色濃く発揮されてます。振り回される主人公たちや現場の警察官たちの苦労に、感情移入すること間違いなしです。
「シン・ゴジラ」が好きな人は間違いなく有川浩「海の底」もハマると思う - 怠惰ウォンテッド
特に、政府が「市街地で自衛隊の出動を認めるのは後から問題追及されるから嫌」という姿勢なせいで、ろくな銃火器もない中でエビと殴り合わされる機動隊が不憫すぎます。
ベタ甘ラブストーリーの部分は、潜水艦内に避難した自衛隊員と女子高生の女の子が担当します。
番外編「クジラの彼」
自衛隊員を主人公に、一般社会とはちょっと勝手の違う色々な恋愛が描かれるショートストーリー集です。ここに「空の中」「海の底」のキャラクターたちのその後のエピソードが収録されてます。
有川さん得意の超甘々な恋愛模様に染め尽くされた、どストレートなラブコメ作品です。自衛隊三部作みたいなミリタリー色はほぼ皆無ですが、本編でキャラに感情移入してから読むとニヤニヤできます。

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まとめ
以上、有川浩さんの自衛隊三部作でした。最近の作風と比べるとやっぱり印象がかなり違いますね。
組織としての自衛隊の描写にかなり力が入ってて話の展開に説得力があるので、SF小説やミリタリー小説が好きな人はめちゃくちゃ楽しめると思います。