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『マッド・ドライヴ』感想・評価 ニコラス・ホルトの怪演が光る音楽業界サスペンス

マッド・ドライヴ(字幕版)

2016年 イギリス

監督:オーウェン・ハリス

キャスト:ニコラス・ホルト、エド・スクライン、ジェームズ・コーデン、ロザンナ・アークエット

 

「マッド・ドライヴ」あらすじ

1997年のイギリス。音楽レーベルで新人アーティストの発掘やマネジメントを手がけるスティーブン(ニコラス・ホルト)は、大ヒットを生み出して出世するという強い野心を抱いていた。

一筋縄ではいかない音楽業界で、思うように結果が出ずに焦りを募らせるスティーブン。やがて彼の野心は次第に膨れ上がっていき、ついには犯罪にまで手を染めてしまい……

「マッド・ドライヴ」感想

変化の激しい音楽業界。ちょっと前まで大人気だったミュージシャンがセールス的に失敗して首を切られる、なんてことも日常茶飯事の、厳しい世界ですよね。それは「裏方の人」も例外ではなく、実績のあるプロデューサーでも一度の失敗で地位を失うようなこともあるんだとか。

そんな世界を描いたのが、この『マッド・ドライヴ』です。

いわゆるA&R(アーティスト&レパートリー)と呼ばれる、レコード会社の新人発掘担当を描いたサスペンスヒューマンドラマ。音楽業界がテーマの映画の中でも、ちょっと珍しい題材がピックアップされていますね。

 

舞台は「オアシス」や「ブラー」などの大物バンドが人気を博した90年代イギリス。音楽業界にとっては全盛期である一方で、安易なごり押しによるヒットの量産に走りすぎて商業色が強まっていった、迷走の時代でもあります。

そんな過渡期の音楽シーンでA&Rとして奔走するスティーブンがこの作品の主人公ですが、彼の行動を観たら100人中100人が彼を「悪人」だと言うでしょう。

その暴走っぷりは明らかに異常で、ライバルを出し抜いて実績を出すためなら、詐欺まがいの行為も、殺人すらも厭わないというとんでもない振る舞いを見せます。

「利益のためなら何でもやる業界人」の権化のようなキャラクターで、「いくら昔の芸能界でもここまでやる奴がいるわけねえだろ」と思わず突っ込みたくなります。実際ここまでする人はいないだろうけど。

 

そんなスティーブンのヤバさを実感させてくれるのが、主演ニコラス・ホルトの演技です。

「マッドマックス 怒りのデスロード」ではアホな若者を演じ、「ウォーム・ボディーズ」では純情ゾンビ青年を演じ、「ロスト・エモーション」ではガラスのように繊細な心情表現を見せた彼ですが、この「マッド・ドライヴ」ではダークでクレイジーな役柄を存分に見せてくれます。相変わらず凄まじい演技力ですね。

 

余談ですが、全く車が関係ないのにマッドマックスにあやかって「マッド・ドライヴ」なんて邦題をつけたのはアホの極みではないでしょうか。

他の注目キャストとしてはリブート版「トランスポーター」で有名になったエド・スクラインやドイツの若手実力派モーリッツ・ブライブトロイなんかも出てますが、存在感の面ではほとんどニコラス・ホルトの一人勝ちです。ストーリーの全てが、彼が演じる「スティーブン」というキャラクターの極悪っぷりを味わうために構成されています。

とある業界の中で一人の人間が利益のために暴走する様を描く、という点では、ジェイク・ギレンホールの「ナイトクローラー」なんかが近い作風かな、と思いました。

 

内容的には闇堕ちサスペンスドラマの要素がメインですが、一方で「音楽業界もの」の映画としても楽しめます。音楽活動をしている人、音楽に関わる仕事に興味がある人にとっては、(過剰にデフォルメされてはいますが)音楽業界の一端をかいま見ることができる作品としても注目です。

 

まとめ

公開時期が悪かったのか題材が悪かったのか、いまいち注目を浴びなかった「マッド・ドライヴ」ですが、「悪人」を主人公にしたサスペンスが好きなら、まず間違いなく楽しめます。

俗物的で欲にまれた世界でのダーティーなサクセスストーリーは、不謹慎だと分かっていてもどこかワクワクハラハラしてしまう異様な緊張感と高揚感があります。

良心や倫理観に障る不愉快なシーンも多めですが、そんな不快感も併せて楽しめる、隠れた良作サスペンスヒューマンドラマです。

マッド・ドライヴ(字幕版)