デヴィッド・フィンチャー製作総指揮、ティム・ミラー監督でNetflixが贈る、異色の短編アニメーション集「ラブ、デス&ロボット」。全18話のレビューの後半戦です。
前半(1~9話)はこちらから↓
10話「シェイプ・シフター」
特殊能力を持ったミュータント的な人間が、軍隊で索敵や偵察要員として任務に就いている……という世界を描いた戦争アクション。「ラブ、デス&ロボット」シリーズの大きな見どころが「実写と見間違うリアルCGアニメーション」ですが、このエピソードもその例に漏れず、本物の戦争映画のような質感です。
内容的には戦争もの+バトル漫画的な展開で、ミュータント差別、男の友情とプライド、バイオレンスなど、映像的にもストーリー的にもそれぞれ見ごたえがあります。
カタルシスの残る結末まで、無駄なくまとまった良作です。
11話「救いの手」
不慮の事故によって、宇宙服ひとつで宇宙空間に投げ出されてしまった作業員を描くSFサバイバル。「ゼロ・グラビティ」や「オデッセイ」をより容赦なくしたようなテイストのお話です。
「CGだ」と分かる決め手になる人間の顔や肌があんまり出てこない分、映像面のリアルさが際立っています。宇宙船や宇宙服だけのシーンなら「実写映画です」と言って見せてもほとんどの人が信じるんじゃないでしょうか。
ストーリーは宇宙に投げ出されるシーンから意外な方法での生還までを短時間で手際よく描いてくれるので、「極限のサバイバル」感をサクッと味わえます。
12話「フィッシュ・ナイト」
「荒野の真ん中で車が故障して立ち往生した2人の男が夜中に目覚めると、あたりを古代の海の生き物たちが漂っていて……」という不思議なストーリーのエピソード。絵柄はレトロなアメリカのアニメ調です。
このストーリーで何を表現したかったのか、何を見せかったのかが分かりづらくて、個人的には全18話中いちばんピンときませんでした。絵はきれいだったかな。
13話「ラッキー・サーティーン」
戦争中の近未来を舞台に、乗員の戦死が相次いだことから「ラッキー・サーティーン」と皮肉で呼ばれている輸送機に配属されたパイロットを描くSFアクション映画。
いわゆる「コンピューターが自我に目覚める」というテーマを遠回しに描いた内容で、輸送機に生存欲や相棒(主人公)への愛情などがあることをさりげなく感じさせる描写が細やかでよかったです。
「愛」「死」「ロボット」というこのシリーズの3大テーマ全てをいちばん濃厚に含んだエピソードかもしれません。
本格的なドッグファイトなど、戦争アクションとしても見ごたえ抜群でした。全18話の中でもトップ3に入るくらい好きです。
14話「ジーマ・ブルー」
伝説的なアーティストに秘められた過去と彼の作品発表を、彼を追う女性ジャーナリストの目線から描くSFヒューマンドラマ。絵柄は昔ながらのカートゥーン調です。
ジーマの意外な出自、彼の作品に込められたアイコン「ジーマ・ブルー」の真相、カタルシスの残る結末。じんわりとした余韻が残る、ストーリーで魅せる秀作でした。ある意味でシリーズ随一の「優しい話」と言えるかもしれません。
15話「ブラインド・スポット」
サイボーグの盗賊団が、武装列車から何やら重要な積み荷を盗む様を描いたアクションです。アニメ版「ワイルド・スピード」とでも言いましょうか。
個性豊かな4人のサイボーグ、デフォルメチックなテイストをCGできれいに描いた絵柄、スピード感と熱さのある展開など、アクションものとして普通に面白かったです。後味のいい結末までナイスでした。
「バットマン」とか「ティーン・タイタンズ」とか、アメリカのアクションアニメが好きなら楽しめます。
16話「氷河時代」
とあるカップルが引っ越してきた部屋の冷凍庫の中に、小さな文明社会があった……というちょっと不思議なコメディ。カップル2人の描写はシリーズ唯一の「実写」です(最初この人たちもCGなのかと思って本気でビビった)。
目まぐるしく進む文明の発展はシムシティみたいで面白いんですが、主人公カップルたちが文明と深く関わるわけでもなく、深いオチがあるわけでもなくで、出オチ感の強いエピソードでした。
冷凍庫の中で核戦争が起こって爆風を顔に浴びちゃうくだりなんかはちょっと面白かったけど。
17話「歴史改変」
「もしもヒトラーが志半ばで死んでいたら?」というifのストーリーを描くブラックコメディ。
「ブラックだろ?」「シュールだろ?」という感じが透けて見えてしまって、そのわりにはただただ普通に話が面白くなくて、めちゃめちゃスベッてるように見えたのは僕だけでしょうか。
欧米ではこういうのが笑いのツボなのかもしれませんが、個人的には全18話の中で一番の駄作だと思います。
18話「秘密戦争」
氷雪地帯を舞台に、異形の怪物たちと戦うロシア軍の部隊を描いた戦争アクション。「ラブ、デス&ロボット」シリーズの目玉ともいえる写実的なCGですが、自然の風景の描写力も圧倒的だと分かります。
ストーリー的にはひねった展開があるわけでもありませんが、パニックアクションものとして普通に面白いです。「CGアニメでここまでリアルな戦闘描写ができるんだ」と思える作品です。
ただ、これを全18話の最後に持ってくるのはちょっと微妙というか、もっと「愛」「死」「ロボット」というテーマの色が濃い作品がラストの方が印象に残ったんじゃ?とも思ってしまいました。
まとめ
以上、Netflixが贈る異色のオムニバスアニメ「ラブ、デス&ロボット」でした。
後半になるとややネタ切れ感のあるエピソードもありましたが、どれもクセのある内容で楽しめました。特にリアル路線のCGアニメーションは、「あと何年かすれば実写とまったく区別がつかないフルCG作品ができるんだろうな」と思わせられる圧倒的な美麗さで度肝を抜かれます。
最大の見どころである「究極的にリアルな映像」という点でも、「ストリーミング配信」というコンテンツ形式だからこそできる過激な表現描写の点でも、アニメの新しい可能性を見せた名作と言えるんじゃないでしょうか。