昔はマニアックなB級ジャンルだった「ゾンビ映画」も今ではすっかり市民権を経て、ハリウッド大作が作られたり、邦画でも「アイアムアヒーロー」のような大作が出てきたりと盛り上がってきました。
ですが、そんな中で「ゾンビがはびこる世界」の表現もマンネリ気味になってきて、どこかで見たような設定の作品も多くなっています。
そんなゾンビ映画の世界に、久々に新しい風を吹き込んでるな、と感じたのがこの「ディストピア パンドラの少女」です。
「ゾンビがはびこる世界」そのものの進化を描いたような意欲作でした。
「ディストピア パンドラの少女」あらすじ
2016年 イギリス
監督: コーム・マッカーシー
キャスト:セニア・ナニュア、 ジェマ・アータートン、パディ・コンシダイン、 グレン・クローズ
未知のウイルスの蔓延によって、ほとんどの人類が「ハングリーズ」と呼ばれる感染者になってしまった近未来。
軍が管理するとある基地では、生まれながらウイルスを体内に持つ次世代の子どもたちを研究していた。この子どもたちは、理性を残しながらも人間の匂いで狂暴化してしまうハイブリッドだった。
ハイブリッドの中でも特に卓越した知能を持つ少女・メラニー(セニア・ナニュア)は、ハングリーズの襲撃で基地が壊滅する中、研究者のヘレン(ジェマ・アータートン)やパークス軍曹(パディ・コンシダイン)ら生き残りとともに基地を脱出する。
荒廃したロンドンへと逃げ延びた生存者たちは、ウイルスのさらなる進化を目撃し、ハイブリッドであるメラニーが人類存続の鍵を持つことをあらためて実感していくのだった。
「ディストピア パンドラの少女」感想
ゾンビを「新しい種族」として描く世界観
元々は小説だというこの「ディストピア パンドラの少女」。脚本は原作者のマイク・ケアリー自らが映画向けに執筆したんだとか。
この映画の一番の特徴は、主人公ポジションにいる少女メラニーが、「人間とゾンビ(ハングリーズ)のハイブリッド」だという点です。
大人顔負けの聡明さと好奇心で周囲の知識を貪欲に吸収しながら賢くなっていく一方で、間近で人間の匂いを嗅ぐと歯をむき出しにしてゾンビ化。演じてるセニア・ナニュアの迫真の表情がインパクト大です。
世界観は「ディストピア」というよりは「ポストアポカリプス(文明崩壊後の世界)」が正しいかな。
植物化していくゾンビたち、ハングリーズとして生き抜く野生児たちの描写など、彼らがその世界にしっかり適応していて、逆に人間の居場所がなくなっていくのを感じさせる表現の数々が秀逸でした。
ゾンビやハイブリッドたちを「ウイルス感染した死体」として描くのではなく「人類から派生した別の種族」「新しい特性をもって進化した生き物」として見せているのが、この映画の斬新なポイントだと思います。
ホラーパニックとしてのスケール感も十分
かなりの低予算映画として作られたこの作品ですが、映像面のクオリティや世界観のスケール感はホラーパニックとして十分すぎる見ごたえがありました。
荒廃したロンドンの風景はチェルノブイリ原発事故で無人になった廃墟をベースにしてるらしくて、どこまでも続く荒廃した街並みのインパクトはけっこう衝撃的です。
基地がハングリーズの襲撃で壊滅するパニックシーンなど、見せるべき場面には一点集中でお金がかけてあるので、アクション的な迫力もしっかりあります。安っぽくないゾンビ映画が観たい方も満足できるはずです。
まとめ:ストーリーと映像がマッチして新世界を見せる良作
「ゾンビ」を新しいかたちで捉えたストーリー、その世界観をしっかり表現しきる映像が合わさって、新感覚のゾンビ映画に仕上がった作品です。
登場人物たちもそれぞれ感情移入できるようキャラが立っていて、それぞれの結末にはひとつひとつカタルシスが感じられます。
無駄なくしっかりとまとまって、文明崩壊の先にある新しい世界を見せてくれる良作として、強くおすすめです。