「アメリカ本土が攻撃される」系の架空戦記では、戦う相手として仮想敵の北朝鮮やロシアなんかがよく出てきますが、現実に他国がアメリカに攻め入ることができるかというと、「そんなことないでしょ」と思っちゃうんですよね。
その点、「ブッシュウィック -武装都市-」はそんな中で独自の設定を展開して、この手の映画では薄くなりがちなリアリティを感じさせてくれました。
それだけでなく、多様な人種やその中の格差、政治的な内部混乱などアメリカならではの社会問題にも迫るストーリーも合わさって、歪なアメリカの一面を見せてくれます。意外にも社会派な異色サスペンスとしての魅力が詰まった映画でした。
「ブッシュウィック -武装都市-」あらすじ
2017年 アメリカ
監督:ジョナサン・マイロット、キャリー・マーニオン
キャスト:デイヴ・バウティスタ、ブリタニー・スノウ、アンジェリック・ザンブラーナ
ニューヨーク州ブッシュウィック。この街出身の大学生のルーシー(ブリタニー・スノウ)は恋人を連れて家族に会いに帰ってくるが、地下鉄の駅を出たところで謎の戦闘に突如巻き込まれてしまう。
恋人を失い、激しい銃撃戦や爆発の中を逃げ惑うルーシー。逃げ込んだ先で元軍人の屈強な男スチュープ(デイヴ・バウティスタ)と出会った彼女は、彼とともに戦場と化した街からなんとか脱出しようとするが……
「ブッシュウィック -武装都市-」感想
人種問題や政治問題、格差社会にもスポットを当てたストーリー展開がリアル
予告編ではアクション映画・戦争映画として宣伝されてた「ブッシュウィック -武装都市-」ですが、本当の見どころは人種問題や社会問題に迫るストーリーの方でした。
まず、アメリカが襲撃される背景が他国からの侵略じゃなく、「南部の一部の州が独立を宣言したクーデター」という設定がいいです。外からの攻撃にはガッチガチに防御力が高そうなアメリカですが、内部での紛争だったらここまで混乱することもあり得そうだな~と思わされます。
そして、舞台となる「ブッシュウィック」という街自体も絶妙な場所でした。
作中のセリフや描写を見るとブッシュウィックはあまり治安がよろしい街じゃないらしく、謎の兵士たちによる攻撃だけでなく、住民同士の争いや略奪が描かれているのも印象的です。
その背景としていろいろな人種の人が住む街としての描写もあって、混沌とした惨状が人種間の格差や対立、貧困問題を生々しく見せてます。
一方で、そんな民族的に多様化した街だからこそ、州単位でひとつの政治姿勢に染まらずに各々が好き勝手に反撃して、おまけに銃の所持率もやたら高かったから戦闘が泥沼になった、っていう背景も面白かったです。
黒人のギャングからクラシカルな黒服に身を包んだユダヤ教徒まで、文化も宗教も民族もバラバラな住民たちが一丸になって襲撃に立ち向かう展開はなかなか熱かったです。
あと、ネットでも賛否両論ある結末は個人的にはアリだと思いました。実際の戦争が起きたらこんなあっけない終わりもあり得るというか、逆にリアルなんじゃないでしょうか。
アクション映画としては凡庸
ストーリー的には見どころが多かったんですが、アクション映画として観ると「うーん…」って感じ。
つまらないとかショボいとかいうことは決してないんですが、これといって特筆すべきポイントがない、「良くも悪くもない」印象です。
宣伝文句に「全編あわせてわずか10カット」とあるように超長回しカットで見せる演出は最初は面白いんですが、開始20分もすると慣れます。
無理に長回しにしたような違和感はないんですが、その分「長回しすげー!」と思わせる印象的なアクションシーンもありません。良くも悪くも長回しを感じさせないので、この演出が活きてるかというと疑問です。
というか、そもそもバンバン撃ち合うようなアクションシーンが少な目なんですよね。サバイバルサスペンスとしてのストーリーで十分すぎるくらい楽しめるんだから、あんまりアクション映画として期待させる宣伝はない方がよかったんじゃないかな。
まとめ:異色の社会派サスペンスとして楽しめる良作
アメリカの多民族国家としての社会背景を観客が知ってる前提のストーリーだし、あんまり娯楽アクション寄りの内容じゃないから万人が楽しめる作品じゃないかもしれません。
「大人の事情(興行的な理由)」でこの点を隠して「みんなが楽しめるアクション映画だよ!すごいよ!」と宣伝したのは結果的に失敗みたいですね。
ですが、「もしアメリカの国土が攻撃されたら」という世界観を独自の設定で見せながら、社会的なメッセージも感じさせる挑戦作としてはなかなか見どころがあります。
分かりやすく面白いアクション映画じゃありませんが、「アメリカだったらこんな混乱が起きることもあり得るかもな」と思わせる異色の社会派サスペンスとして考えながら楽しめる良作です。