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「トールマン」感想・評価 王道ホラーに見せかけた怪作サスペンスだった(ネタバレあり)

トールマン(字幕)

「都市伝説」というのはホラー映画の題材としては定番ですが、数ある都市伝説系ホラーの中でも異色というか、ホラーの皮を被った別の何かだったのがこの「トールマン」です。

ストーリーは全観客の予想の斜め上を行き、目が離せない展開でサスペンスとしてめちゃめちゃ面白いんですが、ショッキングな真相はトラウマ必至です。

「ラーメン屋に来たのにパスタが出てきた、でもそのパスタがめっちゃ旨い、でも人肉使ってた」みたいな衝撃の問題作です。詳しくレビューします。

 

「トールマン」あらすじ

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2012年 アメリカ

監督:パスカル・ロジェ

キャスト:ジェシカ・ビール、ジョデル・フェルランド、ウィリアム・B・デイビス、サマンサ・フェリス

 

以前は鉱山で栄えるも、今は廃れて貧困が広がる田舎町コールド・ロック。そこでは「幼い子どもたちが次々に失踪する」という事件が起こっており、さらに「トールマン」と呼ばれる謎の男が子どもをさらっていった、という目撃証言が多発していた。

街で診療所を営んでいる女性ジュリア(ジェシカ・ビール)も、ある日トールマンと思われる男に自宅に押し入られ、幼い息子デヴィッド(ジェイコブ・デイビス)をさらわれてしまう。

必死にトールマンを追いかけてデイヴィッドを取り返そうとするジュリアだったが、しだいに失踪事件の想像を絶する真相が明らかになっていって……

 

「トールマン」感想

巧みなミスリードが光るストーリー展開

ここまで「やられた!」と思わされる映画はなかなかありません。凄まじいミスリード。うまく散りばめられた伏線が回収されて事件の全貌がだんだん明かされていくストーリーは、ノンストップで惹き込まれて目が離せませんでした。

まず、冒頭でジュリアが警察に保護されてるシーンがもう秀逸です。このオープニングから「36時間前」とさかのぼってストーリーがはじまるわけですが、警察の言葉もジュリアの涙の意味も全部がひっくり返るとはこのときは想像もしませんでした。

ジュリアの自宅にトールマンが押し入ってデイヴィッドをさらい、トールマンのトラックをジュリアが追うシーンは「まだ前半なのに展開早くない?」と思いましたが、まさかこの攻防が序章に過ぎないとは。

ジュリアが「我が子を取り戻そうと頑張る母親」から「子どもたちを洗脳してさらっていた張本人」になって全部が覆って、観ているこちらも感情移入が追いつきません。

そして時系列は冒頭のシーンに戻るわけですが、「子どもたちの姿はない=お前が全員〇したんやな?」と意味が変わっていて、ショッキングなんてもんじゃないですね。

さらにさらに、この結論すらフェイクに過ぎず、子どもたちの行方にはもっと衝撃的な真相があった…となるわけで。

どんでん返しにどんでん返しを重ねる巧みな仕掛けで、何回驚いたか分かりません。

 

倫理的にアウトすぎる独善ボランティア

結局ジュリアは「まともな教育を受けられない貧困世帯の子どもをさらい、裕福な家庭に送っていい教育を受けさせる」という組織の一員だったわけですが、言いたい理屈は分かるけどやってることは確実にアウトですね。

子どもをさらわれた親たちは別に虐待してたわけでもなく、むしろ愛する我が子を失ったことを嘆き悲しんでたわけで、子どもに理想的な環境は与えられてなかったかもしれないけど悪人ではありません。

「閉鎖的で貧しい田舎の家庭」と「受けたい教育を受けられる裕福な家庭」だったらどっちの方が未来が開けやすいかは言うまでもありませんが、それにしてもジュリアの行動は倫理的に駄目です。

子どもの教育環境を変えたいならシステムを整えるとか法的に正しい手段をとるべきで、こんな暴力理論が通るわけないですね。

監督のパスカル・ロジェは「マーターズ」という映画史に残る最悪インモラル映画を作り上げた人ですが、この「トールマン」は直接的なグロはなくても、精神的に「うっ…」とドン引きさせられる点では同じ血を感じさせます。

 

まとめ:いろいろな意味で賛否が分かれること間違いなし

「貧困家庭の教育格差」という題材は社会的で興味深いものですが、ここまでストーリーがアレだとさすがに観る側としても引いちゃうわけで。もう「問題作」としか言いようがありません。

どんでん返しサスペンスとしてはものすごく秀逸なんですが、事件の真相を受けつけない人も多いみたいで、そこがこの映画が賛否両論になってる理由なんでしょう。レビューでも「主人公の行動やりすぎ!」みたいな感想がやっぱり続出です。

「理想は分かるけど行動は間違ってる」の典型みたいなテーマで、苦い後味を感じさせるトラウマ映画としては素晴らしい怪作じゃないでしょうか。

トールマン(字幕)

トールマン(字幕)