怠惰ウォンテッド

映画とアニメとラノベのレビュー 怠惰に平和に暮らしたいだけ

「6才のボクが、大人になるまで。」感想・評価 究極のヒューマンドラマ(ネタバレあり)

6才のボクが、大人になるまで。(字幕版)

「同じキャストで一つの映画を12年撮影する」。どれだけ大変なことか想像もできませんね。

それを実際にやり遂げて一人の少年の成長を一人の俳優で描ききった奇跡的な映画として「6才のボクが、大人になるまで。」は大きな話題になりました。

この話題性だけでなく、ストーリー的にも「究極のヒューマンドラマ」と言える傑作です。泣けます。

詳しく感想を書いていきます。

 

「6才のボクが、大人になるまで。」あらすじ

www.youtube.com

2014年 アメリカ

監督:リチャード・リンクレイター

キャスト:エラー・コルトレーン、パトリシア・アークエット、イーサン・ホーク、ローレライ・リンクレイター

 

6才の少年メイソンは、両親の離婚によって、母親のオリヴィアと姉のサマンサとともにヒューストンに引っ越す。

自由奔放な父メイソン・シニアと定期的に会い、母の再婚で新しい家族ができるなか、メイソンは成長しながら青春や恋・反抗期を経験し、将来の夢もできていく。

そして、高校を卒業したメイソンが大学進学のために家を出る日がやってくる。

 

「6才のボクが、大人になるまで。」感想

「平凡な人生」だからこそこんなに切ないドラマになる

凄まじい映画でした。「同じキャストで12年かけて撮影した」という話題性以上に、ひとつのヒューマンドラマとしてもの凄い作品です。

ストーリー的には特にこれといってどんでん返しがあるわけでなく、何か特別な展開があるわけでもないんですよね。本当に「平凡な一人の少年とその家庭の12年間」って感じ。

6才の主人公メイソンは年相応のわんぱく少年で、家の引っ越しで友達と別れたり、淡い恋をしたり、友だちのお兄ちゃんに影響を受けてちょっとやんちゃしたり、思春期には反抗もしたり。行動はめまぐるしいですが、どれも「普通」のことです。

主人公の母オリヴィアは何度か再婚と離婚を経験します。メイソンにとっては家族が替わっていくのは大きな変化かもしれませんが、「よくある話」といえばそれまでです。

そんな「平凡でありふれた話」だからこそ、リアルさが際立ちます。

なんというか「"普通の人生"って、じっくり見たらこんなにドラマチックなものなんだなあ」という感じました。一人の人間が大人になっていくのってこんなにも変化や感動に満ちてるものなんですね。

そして、そんな感動にリアリティを持たせるのに、「エラー・コルトレーンという一人の俳優が12年感メイソンを演じた」という事実はやっぱり絶大な貢献をしています。ストーリーの奥行きがとてつもないです。

親から見た我が子の成長って、こんなふうにドラマに満ちてるんでしょうか。

 

イーサン・ホークの名演が際立つ

主人公メイソンを演じたエラー・コルトレーンはもちろんですが、父親メイソン・シニア役のイーサン・ホークの演技も素晴らしかったです。

本作の出演者の中では一番名前の知れた俳優だと思いますが、さすが実力派の名優ですね。主人公とは別ベクトルからストーリー全体に深みを与えてます。

メイソン・シニアは最初は「いい年してふらふらしてるミュージシャンかぶれのおっさん」ですが、このポジティブで奔放な生き方が「普通の大人とは違う」感じがしてなんとも魅力的です。

そんな彼も、後半では恋人と再婚して家庭を持ちます。「父親」として落ち着いていく変化が鮮やかです。

メイソンはそうやって「平凡な大人」になっていく父に魅力を感じなくなっていくんですが、そんな彼に語りかけるシニアの言葉の説得力がものすごかったです。「普通の大人になる」ことが人生においていかに特別なことなのかがよく分かります。

「6才のボクが、大人になるまで。」はメイソンの成長ストーリーであると同時に、メイソン・シニアの人生が深まっていく物語でもあると思いました。

 

製作の背景も凄まじい

物語として傑作なのはもちろんですが、製作背景も凄いんですよねこの映画。

まず、製作地のカリフォルニアでは12年も人を縛る仕事の契約が結べないから、完成まで行く保証がなかったとか。

監督のリチャード・リンクレイターが、もし自分が製作途中に死んだら後を引き継いでくれるようにイーサン・ホークに頼んでたとか。

キャストの演技を見ながら脚本も書いていったそうで、リンクレイターは製作費の出資元に相談せず自分でストーリーや演出の内容を決められるという、普通ならあり得ない裁量権をもらってたとか。

演者も監督も出資会社も、色々な大人の事情に縛られず「信じる」ことを軸にひとつの作品を作り上げてるのがすごいです。奇跡的じゃないでしょうか。

 

まとめ:どこまでも鮮やかすぎて泣ける

内容から製作背景まで、全部が凄すぎましたね。

何気ない平凡な人生をここまで鮮やかな物語として描き上げたのは、映画史に残るレベルの偉業じゃないでしょうか。12年かけて、一人の男の子が本当に成長しながら演じたからこそのリアリティです。

最後のシーンとか、あまりにも鮮やかすぎて泣けます。「自分もこうやって大きくなっていったんだな…」と思わずにはいられませんでした。

こんな凄い映画、自分が生きてる間にはきっともう観られないのが残念です。なにせ12年ですからね。他に同じことやろうとする人いないでしょう多分。