異世界転生系のなろう小説にもさまざまなジャンルがありますが、その中でも一定の人気があるのが「クラス転移」ものですね。
僕も少なくない数のクラス転移系なろう小説を読んできましたが、その中でも特にハマったのが「異世界転移、地雷付き。」です。
この作品、異世界転生・転移ものにおなじみの「都合よくチート能力をゲットして無双」を排しつつ、主人公たちが堅実な努力を重ねて冒険者として成功していく様子を見せてくれます。
異世界転移、地雷付き。
主人公ナオたちのクラス転移の流れは、「修学旅行のバスが事故を起こしてクラス全員死亡→神様から能力をもらって異世界に転移」という超テンプレ。
ですが、この「神様から能力をもらって」という部分に、作品タイトルにもある個性が出ています。
能力のもらい方・選び方は「それぞれもらったポイントを割り振ってスキルを取得する」というものなんですが、ここで選べるスキルに「地雷」が含まれています。
あまりにも強いスキルには生死に関わる重大な欠陥が込められていて、欲張らずに「まともな」スキルを選んだ人だけが順調な異世界ライフを送れるように。逆に、チートのようで地雷なスキルを選んでしまったクラスメイトは、容赦なく死んでいきます。
「うまい話(チートスキル)には裏(地雷)がある」という状況で、いかに調子に乗らずに堅実に生きていけるかがストーリーの鍵になってる作品です。
少しのアドバンテージを活かして地道に一歩ずつ
「ご都合主義チート=死」という世界観なので、主人公ナオたちの異世界ライフも「安全第一」の堅実なものになります。この「地道に一歩ずつ」こそがこの作品の最大の見どころです。
ナオたちの冒険者としての仕事は「石橋を叩いた後に3歩進んで2歩下がる」ような地道さですが、そうやって少しずつ少しずつ上に登っていくのが最高に面白い。
その日の宿代すらギリギリのところからスタートして、薬草採集みたいな初歩的な仕事から始めて、少しずつスキルも伸ばしながら成長していくところに魅力があります。
神様から能力をもらってる時点で普通の人と比べて多少のアドバンテージがあるわけですが、そのアドバンテージも「チート」とはとても呼べないものなわけで。せいぜい
「〇〇の魔法のセンスがある」くらいの時点から街の注目冒険者に上りつめていくのが爽快です。
めちゃめちゃ「日本人的」な冒険者生活
この「無理をしない仕事っぷり」に始まって、ナオたち転移者の生活がめちゃくちゃ日本人的なのも面白いポイントです。
なにせ、冒険者として生活が回るようになってからまず考えるのが「老後の引退生活まで考えた貯蓄計画」です。その日暮らしをよしとせず、堅実な貯蓄を始めるところがいかにも現代の日本人。
他にも、身内や友人には親切にしつつも、人間関係にはっきりした「線引き」をして情に負けないところも日本人っぽいです。仕事の契約でも細かい条件まで綿密にチェックしたり、10代にしてここまで身長に几帳面に立ち回っていくのは、日本ならではじゃないでしょうか。
とても異世界とは思えない現実主義な会話もあったりしますが、それが逆に親しみやすくて感情移入できます。
主人公たちの「数年後」を数年かけて読みたいと思える作品
あくまでも「堅実」に進んでいくナオたちの異世界生活なので、その歩みはかなり地味です。ちょっとでも危ないと思ったら一旦引き返してしっかり準備して出直し…くらいの慎重さなので、「ハラハラドキドキの大冒険!」的な要素はほぼありません。
ですが、だからこそナオたちの「異世界で安定した生活を送る」という目標がどうなっていくのか、感情移入しながらじっくり読み進めたくなります。
めまぐるしい展開を追っていくのではなく、ナオたちの数年後を数年かけて読んでいきたいと思えます。こちらも堅実なテンポで一歩ずつ読み続けたい良作です。