「たくさん製作費をかけたからといって面白い大作映画ができるわけではない」というのは色んな作品が証明してきたことですが、その典型例として「映像は派手だけど中身が面白くない」ということがよくあります。
映画を「大作だ」と感じさせるには映像のクオリティはもちろん、物語としての面白さや奥行きのある世界観の描写などが必要です。そういった総合的な「デカさ」の演出・表現に失敗したとき、莫大な予算をかけたのにガッカリな映画が出来上がるんじゃないでしょうか。
「移動都市/モータル・エンジン」もそんな作品です。詳しくレビューしていきます。
「移動都市/モータル・エンジン」あらすじ
2018年 ニュージーランド、アメリカ
監督:クリスチャン・リヴァース
キャスト: ヘラ・ヒルマー、ロバート・シーハン、 ヒューゴ・ウィーヴィング、ジヘ
「60分戦争」と呼ばれる戦争によって文明が滅びた未来世界。多くの都市は街ごと車輪で移動し、他の都市を取り込んで資源を奪うという生存競争をくり返していた。
あるとき、世界最大級の都市ロンドンによって小型都市が取り込まれる。ロンドンの史学ギルドで働く青年トムが取り込まれた都市の解体作業の場にいたところ、小型都市を経て侵入した少女ヘスターが、ロンドンの有力者サディアス・ヴァレンタインを襲う場面を目撃してしまう。
サディアスを刺して逃げるヘスターを追うトムだったが、このことがきっかけでロンドンやサディアスの裏に隠された陰謀を知ることになっていく。
「移動都市/モータル・エンジン」感想
映像は間違いなくすごいんだけど
「移動都市/モータル・エンジン」の最大の売り文句が「ロード・オブ・ザ・リングシリーズのピーター・ジャクソンが贈る最新作」というところ。
今回はピーター・ジャクソンは脚本と製作にまわり、監督はクリスチャン・リヴァースという若手が務めています。
このクリスチャン・リヴァースはピーター・ジャクソンのもとでずっとストーリーボードや視覚効果を務めてきた映像クリエイターで、いわばピーター・ジャクソンの「弟子」です。
そんな人が手がけただけあって、大作SF映画として映像だけ見ると「移動都市/モータル・エンジン」も一級品に仕上がってると思います。
ゴテゴテとした移動都市のビジュアルや退廃的な風景、空中要塞や飛行船。どのシーンも綺麗です。
ですが、「綺麗な一枚絵」な感じがすごい。映画は絵だけでは成り立ちません。冒頭のロンドンのインパクトは凄まじいものがありましたが、言ってしまえばそれで「出オチ」感がありました。
監督の物語づくりの「不慣れ」を感じさせるテンポの悪さ
きれいな映像に対して、ストーリーの方はなんというか「監督がストーリーや人間描写を作り慣れてないんだろうなあ」と感じさせるクオリティでした。
「1億ドルの予算を使って、脚本に沿ってうまくペース配分しながら、起承転結のバランスのいい2時間の物語を作る」となったら、映像技術だけではない色々なバランス感覚が要るんでしょう。
映像畑出身のクリスチャン・リヴァースはその点では不慣れなのか、ストーリー全体のテンポや盛りあがりのバランスがやたらと悪いです。
「はいこのエピソード終わり!次はこのくだり!」「このキャラにはこういう悲しい背景がある!はい感動して!」みたいな、説明的なシーンがすごく多い。
キャラ描写や物語展開のペース配分が分からなくて「なんとか2時間の尺の中で脚本ぜんぶ消化しました!」って感じがする。映画として面白く見せるとか、アクション的な盛り上がりを作るとかの余裕まではなかったんだな、と思いました。
それでもひとつの映画としてなんとかまとまってるのは、それこそピーター・ジャクソンが製作として舵取りをしたからこそでしょう。
まとめ:次回作には期待したい
結果として「移動都市/モータル・エンジン」は製作費1億ドルに対して興行収入は8000万ドル強。利益を出すには製作費の2~3倍の売上がないといけないと言われてる中で、赤字は2億ドル近くなってしまったみたいですね。
ですが、そもそも題材がマニアック過ぎた感もあるし、さすがに監督としては新人のクリエイターに1億ドル規模の作品を任せるのは重すぎるんじゃないかとも思います。
たぶんクリスチャン・リヴァースも、もっと小規模の作品ならうまくまとまった良作にできるんじゃないでしょうか。
せっかく「ピーター・ジャクソンの直弟子」と言えるような凄腕クリエイターなんだから、これで終わりじゃなく次の監督作のチャンスをあげてほしいです。