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「THE QUAKE ザ・クエイク」感想・評価 大災害の「その後」まで考えさせる描写が秀逸(ネタバレあり)

THE QUAKE/ザ・クエイク(字幕版)

ノルウェーのとある町を襲う巨大津波の恐怖を描き、ノルウェー映画としては珍しい本格パニック映画として話題になった2015年の映画「THE WAVE/ザ・ウェイブ」。その続編として製作されたのがこの「THE QUAKE ザ・クエイク」です。

前作のテーマは津波で、今回は「地震」。地質学者の主人公が、家族を守ろうとふたたび奮闘します。

「ノルウェー映画」と聞いても馴染みのない方がほとんどだと思います(僕もそうです)が、ハリウッドの大作パニック映画とはまた違った視点で災害を描き、映像面でもストーリー面でも見ごたえのある作品です。

詳しくレビューしていきます。

 

「THE QUAKE ザ・クエイク」あらすじ

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2018年 ノルウェー

監督:ヨン・アンドレアス・アナスン

キャスト:クリストッフェル・ヨーネル、アーネ・ダール・トルプ、カトリーヌ・トールボリ・ヨハンセン

 

ガイランゲルでの大津波の発生から3年後。家族とともに津波を生き延びたクリスチャンは、津波で犠牲になった多くの人を救えなかったことを地質学者として悔やみ、首都オスロに引っ越した家族と離れて一人ガイランゲルで研究に没頭する日々を送っていた。

そんな中、クリスチャンの友人でもあるオスロの地質学者が、トンネル事故で亡くなったという訃報が入る。弔いのために彼の自宅を訪れたクリスチャンは、彼が遺した研究データから、オスロに大地震の危機が迫っていることを知るのだった。

被害を最小限に抑えるために奔走するクリスチャンだが、周囲が「地震なんて起こらない」とまともに取り合わない中でついに地震が始まってしまい……

 

「THE QUAKE ザ・クエイク」感想

「めでたしめでたし」で終わらない災害のリアルを描く

「THE QUAKE ザ・クエイク」のストーリーの軸にあるのが、前作の津波被害をひきずる主人公クリスチャンの「多くの人を救えなかった」という後悔の感情です。

また、劇中では前作の被害が街に残した爪痕がニュース映像などで淡々と描かれて、津波から時間が経ってもまだまだ被災者の戦いが続いていることが分かります。

ハリウッドの災害パニック映画は「みんな生き残ったね!めでたしめでたし!」という感じで終わる作品が多いですが、災害はその場で生き延びたら終わるわけではなく、「大切な人を亡くした悲しみを抱えて、生活を根こそぎ失って、すべてゼロからやり直さないといけない」という現実が待っているのは僕たち日本人はよく知っていますね。

そういう、大災害の「その後」までをもしっかりと感じさせる作風が、シリアスなリアリティを大きくしていました。

今回の地震に関するクリスチャンの奔走も、前作で災害の恐ろしさを身をもって知っているからこその焦燥感がじわじわと伝わってきます。

 

「主人公ですら無力」という圧倒的な自然の恐怖

この作品のもうひとつの特徴が「主人公が無力」である点にあります。

主人公クリスチャンは地質学者でデータをもとに地震を予見することはできますが、それ以外はただの平凡な人間に過ぎず、決してヒーローではありません。

ハリウッドのパニック映画にありがちな「たくましい主人公が颯爽と現れて救う」描写も、「幸運に恵まれまくって何度もピンチを乗り越える」描写もありません。

クリスチャンがあと一歩で妻を救えず失うシーンが、「本当の災害では万能なヒーローなんていない」というメッセージを象徴しているように思えます。ハリウッドなら危機一髪で助かるシーンだもん普通。

そんな中で、文字通り捨て身の勇気と血のにじむ行動で娘だけはなんとか助け出すシーンが映画として唯一の救いでしょうか。

 

ハリウッド顔負けの凄まじいパニック描写

どこまでもシリアスに災害を描く「THE QUAKE ザ・クエイク」ですが、どう見ても本当の大地震が起こっているようにしか見えない怒涛のパニック描写がそんな作風の説得力に拍車をかけます。

リアルなVFXでオスロの街並みが崩れ、ビルがまるで積み木のように崩壊していく様は、「マジか…」と言いたくなる凄まじい迫力です。ヒヤッとしました。

予算的にはハリウッドの何分の一、という製作規模のはずですが、その迫真のリアリティはハリウッド大作にもまったく引けを取りません。

ぶっちゃけどんな日本のパニック映画よりすごいCGだと思います。ノルウェーって人口が福岡県と同じくらいの小さな国のはずなのに。邦画と何が違うのだろう…

 

まとめ:生々しくも考えさせられる名作

「ド派手な破壊描写でハラハラドキドキの大迫力を楽しむ!」という感じのパニック映画ではなく、むしろけっこう生々しい死亡シーンとかでズーンとくるタイプの作品ですが、だからこそ「災害」という何よりも身近で何よりも恐ろしい恐怖についてじっくり体感させられます。

明るく豪快で爽快なハリウッドのパニック映画も楽しいものですが、たまにはこういうシリアスに振り切った作品を観るのも色々と考えさせられます。特に地震大国の日本に住む以上、作中の恐怖は他人事じゃないですから。

THE QUAKE/ザ・クエイク(字幕版)