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【Netflix】「イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-」感想・評価 これぞスティーヴン・キング原作ホラー(ネタバレあり)

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スティーヴン・キングとジョー・ヒルによる短編小説を原作にしたNetflixオリジナルのホラー映画「イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-」。決して出られないオカルト草むら迷路に迷い込んだ人々を描く、まさかの「草ホラー」です。

「スティーヴン・キング原作映画」と「Netflixオリジナル映画」といえば、どちらも当たり外れのでかいカテゴリとして有名。ですが、本作はなかなかの秀作だったと思います。詳しくレビューしていきましょう。

 

「イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-」あらすじ

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2019年 アメリカ、カナダ

監督: ヴィンチェンゾ・ナタリ

キャスト:ハリソン・ギルバートソン、ライズラ・デ・オリヴェイラ、パトリック・ウィルソン、ウィル・ビュイエ・Jr

 

妊娠中のベッキーとその兄のカルは、辺鄙な田舎道を車で進む休憩中に、道はずれの草むらから「助けて」と叫ぶ子どもの声を聞く。

子どもを助けるために背の丈以上もある草むらの中に入っていく彼らだったが、迷路のような草むらの中ではぐれて方向感覚を失い、さらに「いつの間にかお互いの位置があり得ないほど離れる」といった異常現象に襲われていく。

やがてカルとベッキーは、助けを呼んでいた少年トービンやその父親ロスと出会う。そして彼らの発言から、自分たちが異常な世界に迷い込んでしまったことを把握していくのだった。

 

「イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-」感想

不穏な要素の足し方と緊張感のあおり方が好き

まずオープニングの雰囲気からすごく好きでした。何気ない普通の風景なのにすでに謎の不穏さを帯びていて、いつのまにか狂気の世界に入り込んでいく……という展開がモロにスティーヴン・キング原作ホラーっぽさ全開です。

そこから序盤では「方向も他者との距離も見失わせる草むら」というシチュエーションの恐さを存分に感じさせて、やがてその場所に秘められた謎を明かしつつ、キング作品お得意の「極限状態における人間の狂気」が具現化されて襲ってくる流れに突入。

ひとつひとつの恐怖演出も「お互いの位置を確認しようとジャンプで草の上に顔を出したら、一瞬であり得ないほど離れてた」などセンスフルです。たったそれだけの演出でこちらのメンタルへの効果はばつぐんだ。

シチュエーションホラー最大のネックである「ネタ切れによる中だるみ」を怒涛の展開で防ぎ、絶妙なタイミングで不穏な要素をおかわりさせつつ緊張感をあおる手法があざやかでした。

監督は「キューブ」や「ストレイン 沈黙のエクリプス」、ドラマ版の「ハンニバル」で知られるヴィンチェンゾ・ナタリ。この手のホラーはお手のものみたいで、手腕がしっかり発揮されてます。

 

「親と子」にフォーカスを当てた極限の人間描写

スティーヴン・キング作品と言えば「人間の内面」をテーマのひとつにしたものがほとんどですが、本作ではそれが「親と子」のかたちでフォーカスを当てられていました。

ベッキーとお腹の子ども、その父親であるトラビス、トービンとその父親のロス…彼らの関係やその心理、そこから来る行動がストーリーのキーになってます。命を賭して子どもを守れるか、その覚悟と勇気があるか、そんな内容が恐怖描写や登場人物たちの行動の裏に感じられるのが印象的でした。

最後に自分を犠牲にトービンを救い、それをきっかけに恋人ベッキーとお腹の子をも救う…というトラビスの行動は、狂気の迷路に対する「勝利」と呼んでもいい結末です。

スティーヴン・キング原作ホラーの代表格「ミスト」が伝説的なバッドエンドで終わってるのを考えると、ハッピーエンドと呼んで差し支えないのではないでしょうか。

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パトリック・ウィルソン大化け

本作の出演陣の中では唯一といっていい有名俳優パトリック・ウィルソン。ふだんはホラー映画などで典型的なアメリカン主人公を演じることが多い彼ですが、今回は「迷路の狂気に飲まれて暴走する父親」といういわば「悪役」でした。

この演技が凄かった。めちゃめちゃ怖いです。爽やかイケメン男なイメージだったのにこんな役もできるんですね。

彼の演じるロスは狂気にとらわれたことを除けばただのお父さんなんですが、こいつが追ってくる恐怖感・絶望感は凄まじいものがあります。「家族を守るパパ」が敵にまわったらこんなに怖いんですね。

このパトリック・ウィルソンの大化けした演技も、本作の恐怖度を重要なポジションで支えてます。

 

まとめ:スティーヴン・キング原作らしさ全開で楽しめます

冒頭からどこか居心地の悪い不穏な空気感、畳みかける恐怖演出と極限のシチュエーション、むき出しになっていく人間の心理…と、どこまでもスティーヴン・キング原作らしさが全開でした。

キング原作の良質なホラー映画が観たい方は、まず期待して観られる秀作です。