全人口が35万人という大西洋北部の島国、アイスランド。
独特の風土と豊かな自然からハリウッド映画のロケ地としてたまに名前を聞く国ですが、かなりの小国だけあって、「アイスランドだけで作られた純国産映画」が日本まで入ってくるのはレアです。
本作はそんな珍しいアイスランド映画のひとつ。「アイスランドの刑事もの?どんなもんかな?」と完全に舐めてかかったら、予想外に面白い秀作だったのでレビューします。
「ディール・ブレイク」あらすじ
2014年 アイスランド
監督: オーラフ・デ・フルール
キャスト:ダリ・インゴルフソン、 オーグスタ・エヴァ・アーレンドスドーティル、 イングヴァール・E・シーグルソン、ズラッコ・クリキク
新人警官のハンネスは元警官の父にあこがれて警察の特殊部隊を志願するが、成績が及ばず内務調査室に配属される。
そこで父の友人でもある麻薬課のマルゲールがギャングと結託して汚職を行っているという情報を得たハンネスは、マルゲールの動向を調査していく。
事態はしだいに深刻化し、複数のギャング組織と警察特殊部隊を巻き込んだ大きなものになっていき……
「ディール・ブレイク」感想
敵から味方まで「男たちの心情」に焦点をあてたハードボイルドなドラマ
この「ディール・ブレイク」はジャンル的には「若き警官が正義のために警察内部とギャングの癒着を追う」という刑事サスペンスですが、本作の一番の見どころは、主人公から敵までの「男たちの心情・生き様」の描写にあります。
主人公ハンネスが「自分も父親のような優秀な警官であろう」と苦悩するメインストーリーはもちろん、警察上部と癒着するギャングのセルゲイも「ほとんど孤児のような境遇から裏社会で成り上がってきたが、妻の妊娠を機に足を洗って平和に暮らしたい」という人間らしい内面を持っていたりして、単純な「悪役」ではありません。
さらに、ハンネスが追う汚職警官マルゲールも「自分の汚職がばれないか超ビクビク」という人間らしい小物で、ハンネスの汚職捜査のきっかけのタレコミをしたもう一人のギャング・グンナーも「裏社会で生き延びてきた男」としてのしぶとさを感じさせます。
この4人を中心にストーリーが展開されますが、彼らの人間臭さがリアルで、群像劇としてかなり面白かったです。
個人的には、セルゲイの「凡人っぽさ」がなんか好きでしたね。悪人ではありますが、実際は裏社会のリーダーとはいえ一人の人間でしかないのでしょう。
人口35万人のアイスランドの裏社会ということで非常にミニマルな舞台ですが、だからこそ各勢力の「人間味」が分かりやすく表れてて妙に感情移入させられました。
クライムサスペンスとしても及第点以上のクオリティ
見どころのメインは男たちの群像劇的なヒューマンドラマですが、そういう面で人物描写がしっかりしてるからこそ、クライムサスペンスとしても及第点を超えて「良作」と言っていいクオリティに仕上がってました。
ストーリー的に特筆すべき真新しい点があるわけではありませんが、「主人公たちの捜査チームvsセルゲイの組織vs外部の犯罪組織」という3つ巴の構図にマルゲールやグンナーのような不安要素が加わることでそれなりに目まぐるしくストーリーが展開して飽きません。
映像的に派手なアクションはありませんが、アイスランド警察特殊部隊による拘束作戦などはなかなかの緊張感。おそらく国内に1部隊しかないであろう武装警察がずーっと出ずっぱりで働かされてて笑います。
ラストも単純な終わり方ではなく、超小国であるからこそ色々と不安定な部分もあるであろうアイスランドのシリアスな一面を感じさせてくれて、良いカタルシスがありました。
まとめ:珍しい産地の良作サスペンスとして観てみては
刑事サスペンスやノワール映画が好きな人にとっては普通に「100分間の暇つぶし」として楽しめる小粒な良作だと思います。
「純アイスランド産のサスペンス映画」ということで、珍しい産地の珍味を楽しむような感覚で観てみるのもおすすめです。