怠惰ウォンテッド

映画とアニメとラノベのレビュー 怠惰に平和に暮らしたいだけ

「ヒトラーに屈しなかった国王」感想・評価 象徴としての国王の立ち方(ネタバレあり)

ヒトラーに屈しなかった国王(字幕版)

日本の元号が令和にかわって、様々な行事や儀式があって、あらためて「象徴天皇」の存在を意識した人も多いのではないでしょうか。

政治的権限がなく、「国家・国民の象徴」と位置付けられた王家は何のためにあるのか。何ができるのか。

この「ヒトラーに屈しなかった国王」では、一国の王様自身がそのことに悩み、行動する様を描いています。詳しくレビューです。

 

「ヒトラーに屈しなかった国王」あらすじ

www.youtube.com

2017年 ノルウェー

監督: エリック・ポッペ

キャスト: イェスパー・クリステンセン、 アンドレス・バースモ・クリスティアンセン、 カール・マルコヴィックス

 

1940年。ナチスドイツ軍がノルウェーへの侵攻を開始し、軍による防衛や国民の避難が始まる中で、ノルウェー政府は降伏か抵抗かで意見を割っていく。

ノルウェー国王であるホーコン7世も王太子をはじめとする王家の家族とともに避難生活を送るが、その中で「象徴的な国王である自分は何をすべきか」を思い悩んでいく。

やがて、ドイツ公使より「ノルウェー国王と一対一で交渉がしたい」という要求があり……

 

「ヒトラーに屈しなかった国王」感想

ホーコン7世が選んだ「民主主義の先頭に立つ国王」というあり方

ジャンル的には歴史映画・戦争映画に分類されるこの「ヒトラーに屈しなかった国王」ですが、内容的には主人公のホーコン7世を中心とした人々の内面を描くヒューマンドラマ的な要素が大きい作品です。

ホーコン7世は、1905年にノルウェーが国家として独立する際にデンマーク王家からノルウェーにやってきて「新しい王様」になった人物。国民からの敬意はあっても、その地位は「歴史と伝統に基づく」というわけではありません。

そして、日本と同じく国王の立場は「象徴」であり、政治的権力はありません。

そのため、ドイツ軍による侵攻が進む中で、自分は国王なのに何もできないお飾りなのか、逃げ続けるだけなのかと苦悩していきます。

 

そうして悩み続けた結果、クライマックスで彼が下す決断は、民主主義社会における象徴としての国王の存在意義を示すひとつの答えになっているんじゃないでしょうか。

ホーコン7世はドイツ公使との一対一の交渉で、「国のあり方は政府が決める」という鉄則を守ってドイツ側の「降伏を決断しろ」という要求を拒否しました。

一方で、ノルウェー政府の閣僚たちに対しては「国の行く末を決めるのはあなた方だ。しかし、ドイツの要求を呑むのであれば私は国王を辞する」と語ります。

「ドイツに降伏してノルウェーの誇りを捨てるのであれば、自分はノルウェー国民の象徴を辞める」という宣言。ホーコン7世はこの宣言によって、国王という立場を以て国民の意思を体現するという、自身の難しい役割を果たしました。

彼が「ノルウェー民主主義を象徴する国王」として今も敬愛されているのは、国民の象徴の国王として、確固たる立ち方を続けたからなんでしょう。

 

「国民に身近で人間味ある国王」の描写

本作の中で印象的なのが、「国王と国民の距離が近い」点です。

緊急事態のせいもあるでしょうが、ホーコン7世は国民たちと同じ列車で避難して、国民たちと同じ空き宿に泊まり、国民たちと同じく空襲から逃げ惑います

人口わずか400万人(当時)という小国だからこそなのか、国王が国民にとって身近なイメージがありました。周りの反応も、「あ、国王様だ」ってちょっと礼する感じ。

さらに、映画の最初もホーコン7世が孫たちのかくれんぼに付き合わされてるシーンから始まったり、王太子オラフと「父と息子」という立場で語らう場面があったりと、人間味を感じさせる描写が多めです。

めちゃめちゃ人間くさい国王様だからこそ、目に見えて分かりやすく「国民の象徴」たり得るということもあるんでしょうか。

 

歴史戦争映画としての重みも見どころ

第二次世界大戦の一場面を描く歴史戦争映画としても「ヒトラーに屈しなかった国王」は興味深い作品です。「超大国ドイツとの戦争に突入していく」ことへの緊張感はかなりのものでした。

今でこそ資源や金融・先端技術の面で先進国となっているノルウェーですが、その立場も安定した国際社会があってこそ。当時は吹けば飛ぶような北の果ての小国でしかありません。

「俺たちマジでドイツと戦うのか…」という兵士たちの緊張がヒリヒリと伝わってきて、戦いの火蓋を切る「最初の一発」の重みは凄かったです。

また、少年兵セーベルは本作でただ一人「一市民の目線から戦争を見る」人物でしたが、ドイツ軍との地上戦が始まった中でも、彼がどこかうわの空でライフルを撃っているのが印象的です。「戦争が始まった」という現実を実感できてない様子なのがかえって怖さをかき立てました。

 

まとめ:現代の王家の存在意義も考えさせる良作

直接何か決断できるわけではなくても、「国民の象徴として意思を表明する」ことで影響力を見せるという決断をしたホーコン7世の行動は、民主主義社会における王家の存在意義をひとつのかたちで示しています

彼の意思表明の結果として戦闘が続き、死者が出たという側面もあるのでしょうが、彼がドイツに屈した(=国家としてノルウェーがくじけた)ら今のノルウェーの立場も違っていたかもしれない、と考えると簡単に判断できる問題じゃないでしょう。

「人間らしく悩んで、国民として決断する王様」の姿に、象徴としての国王の立ち方を考えさせられる良作でした。

 

こちらの記事もおすすめ

www.taida-wanted.com