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「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」感想・評価 敵の敵は味方(ネタバレなし)

アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場(字幕版)

北欧のフィンランド発、「ワンシーンで使った火薬の最大量」でギネス認定を受けたという戦争映画「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」。

第二次世界大戦当時のヨーロッパの微妙な関係を壮絶な戦闘シーンとともに描いていて、「ギネス記録を~」といううたい文句だけで評価するのはもったいない名作です。戦争映画史に残る作品と言っていいんじゃないでしょうか。

歴史伝記映画としても見どころの多い本作を詳しくレビューしていきます。

 

「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」あらすじ

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2017年 フィンランド

監督・脚本:アク・ロウヒミエス

キャスト:エーロ・アホ、ヨハンネス・ホロパイネン、アク・ヒルヴィニスミ、ハンネス・スオミ

 

ソ連の侵攻に対してフィンランドが果敢に抵抗し、領土の割譲のみで国を守り切った「冬戦争」の終結後。

フィンランドは失った領土を取り戻すためにドイツ軍を味方に迎え入れ、さらに人口400万に対して総勢50万という軍を組織して反撃に臨む。

兵士として招集された男たちは、泥沼の戦場で次々に命を落としていき……

 

「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」感想

当時の微妙なヨーロッパ情勢

この「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」を見る上では、第二次世界大戦当時のヨーロッパの微妙な情勢をある程度知っておくとストーリーを理解しやすいです。

まず、戦後に冷戦で対立することになる西側諸国とソ連は、戦争当時はまだそれほど仲が悪くありませんでした。

それは「ドイツ・イタリア・日本」という共通の敵がいたから。アメリカ・西ヨーロッパとソ連は、「敵の敵は味方」の理屈で仲良しだったとすら言えます。

 

だからこそ、ソ連がフィンランドに侵攻したとき、北欧の小国でしかなかったフィンランドは超大国ソ連に対して独力で戦わないといけませんでした。これが「冬戦争」です。

フィンランドは圧倒的不利の中でも意外な善戦を見せ、「領土の一部をソ連に明け渡す」という不利な条件で停戦を結びながらも「フィンランドが丸ごとソ連に占領される」という事態を防ぎました(あくまで一時的な停戦ですが)。

そして、そんなフィンランドはソ連のさらなる侵略を防いで領土を取り戻すために、ソ連と対立していたドイツと同盟を結びます。あくまで「ソ連に立ち向かう」という利害の一致による同盟ですが、ここでも「敵の敵は味方」ですね。

その結果起こった「継続戦争(フィンランド&ドイツ VS ソ連)」が、本作で描かれる戦いです。

 

「ドイツと手を結ばなければ国ごと消滅していたかもしれなかった」「でも戦後は"ドイツに味方した国"として冷遇を受けた」という、フィンランドの複雑な歴史がうかがえますね。

 

戦闘シーンの緊迫感が凄すぎてビビる

「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」を観はじめてまず驚かされるのが、「やばいほど緊張感のある戦闘シーン」です。

現在でも全人口が500万人ほど、福岡県や北海道と同じくらいの規模の国であるフィンランドが、一国だけでこんなハリウッド大作レベルの戦争映画を作ったというから凄いですね。

 

北の荒涼とした大自然と雪景色の中で行われる戦闘は、ヒヤッとした緊張感に満ちていて、凄惨な破壊描写も合わさってゾクッと鳥肌が立ちます。

戦闘シーンはCGより実際の火薬をメインに使ってるみたいで、一発の砲弾、ひとつの手りゅう弾の爆発がやたらと重々しく響きます。

真っ白なコートで雪に紛れて狙撃したり、針葉樹林に囲まれた大河をボートで渡ったりと、北ヨーロッパならではのロケーションで戦いが展開されるのも見どころです。

 

あと、宣伝文句にもあった「ギネス記録認定の爆発シーン」ですが、これを「敵陣地を一掃するための砲撃」として遠景で、あくまでリアリティ重視に見せていたのも印象的。決して派手さはありませんが、「森林が一画まるごとふっ飛ぶ」というよく考えたら凄まじいシーンでした。

 

戦闘シーンのリアルさや緊張感は、「プライベート・ライアン」や「ブラックホーク・ダウン」、「ハクソー・リッジ」のような歴史的大作と比較しても劣らないレベルじゃないでしょうか。

 

「味方」として描かれるドイツ軍

先に書いたようにこれは「フィンランドとドイツが同盟を結んでソ連と戦った話」なので、第二次大戦を描く戦争映画としてはかなり珍しく「ドイツ軍が味方として登場」します。

「ドイツ兵を人間らしく描く」というのは今もかなり繊細な配慮が要求されるので、ここまで「人間味あふれるドイツ兵を見せる」というのは相当な決意が要ったんじゃないでしょうか。

 

ドイツ軍部隊のメインキャラクターとなる若いドイツ人将校は、「ドイツ軍=冷酷で残忍」というこれまでのイメージを全く感じさせません

むしろ、酔っぱらったフィンランド兵たちを微笑ましく見たり、ソ連兵の死体から物品を剥ごうとする兵士を咎めたり、瀕死のフィンランド兵の手を握ってやったりと、かなり人道的で善良な人物として描かれます。

まあ、当時も多くのドイツ兵は「ごく普通の人間」なわけで、こういう普通の倫理観を持った人も当たり前にいたんでしょうが、この「当たり前」を描くのはかなり厳しい決断があったんじゃないでしょうか。

一方で、ドイツ軍でも上級将校はやっぱり「部下を捨て駒扱いするひどい奴」として描かれてるので、若い下級将校や下っ端の兵卒などの一般ドイツ兵もまた「権力者に使い捨てられる犠牲者」だったとよくわかります。

 

フィンランドからしたら「継続戦争を一緒に戦った最前線のドイツ兵」は(一時的とはいえ)命を預け合った味方であったわけで、こういう人間的な描写は、そういった戦死者への敬意を正直に示したことになるんでしょう。

とはいえ、第二次大戦から70年以上が経って「特定の国への悪感情抜きで当時の戦争を見据えて評価する」という雰囲気が広まった現代だからこそ、こういう描写もできたのかもしれません。

 

「絶大な大国に挑む」ことを強いられる兵士の心情

第二次世界大戦を描くハリウッド映画では、大抵は「独裁者の侵略から世界を守る」という信念があるため熱い描写が多いですよね。

ですが、「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」で描かれるのは、「(フィンランドにとっては)到底勝ち目のない超大国ソ連に立ち向かう」という、当事者からしたら複雑な戦いです。

しかも、400万人(当時)の人口からかき集められた50万人の軍隊は、当然ほとんどは一般人で、士気もまちまち。ノリ気で戦えるわけありませんね。

それでも「国を守る」「母国の土地を取り戻す」ために戦う彼らの心情描写は、見ていてヒリヒリするくらい心に来ます。

主人公ロッカ伍長の、穏やかな表情を見せながらも戦闘では鬼のような顔を見せる変化が印象的です。

 

全体的なストーリーも「群像劇」としてさまざまな登場人物に焦点を当ててるので、邦題の「英雄なき戦場」のまさにその通りでした。

兵士たちの休暇中の家族との交流など、バックグラウンドを見せるシーンがよけいに感情を揺さぶってきます。ドイツ人将校も「休暇で帰れば愛する妻が待っている」という一人の人間として当たり前に描かれてるのが印象的ですね。

 

それでもフィンランドはソ連にジリジリ追いつめられていくわけですが、それが「地図上の勢力図」としてあっさり他人事として描かれるのもポイント。最前線の兵士からしたら全体的な戦況なんて自分とはほど遠いことで、「目の前の敵と戦う、そして生きて家族のもとに帰る」ことだけが全てだと分かります。

人間味たっぷりに描かれる兵士たちが、目を覆いたくなるような最期を遂げていくのが、どんな「英雄的な最期」よりリアルで生々しくて心に響きました。

 

まとめ:第二次大戦の知られざる一面を知られる傑作

第二次世界大戦史ではほとんど注目を浴びてこなかったフィンランド、冷酷なだけではないドイツ軍兵士など、知られざる歴史の一面をかいま見ることができる作品でした。

壮絶な戦闘シーンなども凄かったですが、何より「人間の描写」が最大の見どころ。フィンランド兵からドイツ兵まで、陣営も主義も関係なくただ「人間」として描いた作り手の信念は映画史に刻まれるべきだと思います。

 

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