現代史において「第二次世界大戦」は最も重大な出来事のひとつ。多くの国を巻き込んだこの戦争は、さまざまなかたちで歴史映画化されてきました。
そのため、日本のではふだんあまり馴染みのない国を題材にした、興味深い良作が多いのが特徴です。
そこで今回は、ヨーロッパのいろんな国の「第二次世界大戦」を描いた戦争映画をまとめてみました。
主な舞台となった国ごとに紹介していきます。
ドイツの第二次世界大戦
ヨーロッパで第二次世界大戦の戦火の中心となったドイツ。
そのドイツを舞台にした第二次世界大戦映画は、やっぱり「ナチス」にスポットをあてた作品が多くなっています。
ヒトラー ~最期の12日間~
第二次世界大戦を引き起こした張本人といっても過言ではないアドルフ・ヒトラーを最も詳しく、鮮烈に描いたのが、この「ヒトラー ~最期の12日間~」でしょう。
ドイツの敗戦直前、首都ベルリンにまでソ連軍が迫って爆撃をくり広げる中で、地下壕にこもって最後の抵抗を試みるヒトラーの「最期の12日」が描かれます。
実際にこの地下壕内まで付き従って彼に仕えた秘書の証言をもとにした作品で、あまり知られてこなかった「人間としてのヒトラー」に迫る内容が特徴です。
スターリングラード(1993)
第二次世界大戦の激戦区のひとつ、スターリングラードでの戦いをテーマにした戦争映画。この戦いで壊滅したドイツの部隊が、極寒の中で地獄の死闘を強いられる様が描かれます。
主演は「戦場のピアニスト」などへの出演で知られるトーマス・クレッチマン。凍てつく過酷な戦場を、空気感まで体感させられる名作です。
ちいさな独裁者
一兵卒の脱走兵でありながら、「偶然拾った大尉の軍服を着て、大尉のふりをして敗残兵をまとめて自分の部隊を組織する」という暴走をはたらいた若者を描く戦争映画。
嘘のような話ですが、実在した戦争犯罪者ヴィリー・ヘロルトの半生をもとにしたノンフィクションというから驚きです。
「一人の人間が権力に溺れて暴走する過程」を存分に味わわせる怪作に仕上がっています。
「ちいさな独裁者」感想 「独裁者」の誕生と躍進の過程をミニマルに描く - 怠惰ウォンテッド
ポーランドの第二次世界大戦
戦時中はドイツ軍によって占領され、最も戦争やホロコーストの被害が大きい国のひとつとなったポーランド。
実は、第二次世界大戦を描く有名作の多くは、このポーランドでの出来事を描いています。主な作品を見ていきましょう。
戦場のピアニスト
ドイツによるユダヤ人虐殺を描いた映画の中でも、最も有名な作品のひとつでしょう。
ドイツ占領下のワルシャワでユダヤ人迫害が日に日に過酷さを増していく中で、過酷すぎる逃亡生活を送ることになるピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの日々が描かれる実話戦争ヒューマンドラマです。
目を覆いたくなるような迫害描写が生々しく突き刺さる、ショッキングな名作となっています。
シンドラーのリスト
こちらもホロコーストを描く映画としては代表格。スティーヴン・スピルバーグ監督、リーアム・ニーソン主演で、1000人以上のユダヤ人を救ったドイツ人実業家オスカー・シンドラーを描いた作品です。
アカデミー賞作品賞も授賞した歴史的名作で、モノクロ調の独特の映像なども特徴となっています。
リベリオン ワルシャワ大攻防戦
ポーランドの首都ワルシャワで、ドイツ占領軍の圧政に耐えかねた市民が蜂起した「ワルシャワ蜂起」を描く戦争アクション映画。
主人公たち若者の青春ドラマのような幕開けから一転、想像を絶するほど残酷な戦闘がくり広げられていきます。
血と泥にまみれた過酷な戦場を、ショッキングな戦いの演出で鮮明に描く超大作です。
ディファイアンス
ドイツ占領下のポーランドの森(現ベラルーシ)に潜伏してレジスタンスを組織し、抵抗活動を続けた実在の兄弟を描く戦争映画。
主演を「007」シリーズの現ジェームズ・ボンド俳優として知られるダニエル・クレイグが務め、過酷なゲリラ戦が描かれます。
ユダヤ人レジスタンスによる非正規戦をテーマにした珍しい作品としても興味深く観られる、隠れた良作です。
ロシアの第二次世界大戦
第二次世界大戦中のロシア(ソ連)は、ドイツという共通の敵を持つことで、西欧諸国とは一応良好な関係を築いていました。
とはいえ、その軍隊内部はかなり悲惨な状況だったことも知られていて、戦争映画・歴史映画の中でもさまざまな描かれ方があります。
スターリングラード(2001)
ドイツ映画の方と同タイトルですが、こちらはハリウッド製作でロシア側からスターリングラード戦を描いた戦争アクション映画。英雄的な活躍を見せる狙撃手を主人公に、過酷な戦場での静かな戦いが描かれます。
アクションはもちろん、「プロパガンダとして作られた英雄」の苦悩が生々しく展開されるのも見どころです。
スターリングラード 史上最大の市街戦
こちらもスターリングラード戦をロシア側から描いた戦争アクション映画。わずかな兵力で籠城戦に挑むロシア軍の部隊が、ドイツ軍の猛攻や卑劣な暴走に抵抗していきます。
ドイツ軍の目を覆いたくなるような暴走に戦争の悲惨さを感じさせれる一方で、「人海戦術のロシア軍VS銃火力のドイツ軍」の戦闘シーンの冗談みたいな派手さも見どころ。度肝を抜かれる爆発炎上の嵐で、呆然としてしまうほどの戦いが描かれます。
ロシアン・スナイパー
この時代のヨーロッパとしては珍しく、女性の正規兵もかなり多かったロシア軍。そんな軍内の女性スナイパーを描く戦争映画です。
リュドミラ・パヴリチェンコという実在の女性狙撃兵を主人公にした作品で、淡々とした緊張感の走る戦闘シーンが印象的な良作となっています。
ヒトラーと戦った22日間
アウシュビッツと並ぶ犠牲者を出したソビボル強制収容所で、600人もの収容者が脱走を図った出来事を描く歴史サスペンス映画。この脱走の中心となったソ連軍兵士のアレクサンドル・ペチェルスキーを中心にストーリーが描かれます。
非人道的な行為がまかり通る収容所内の地獄絵図のシーンにはじまり、緊張感のある脱走計画のシーンまで息の詰まる描写が続く良作です。
ノルウェーの第二次世界大戦
今でこそ豊かな福祉国家として知られる北欧のノルウェーですが、当時は小国のひとつとして、ドイツ軍を前に危機に陥りました。そんな中でも必死の抵抗を展開した歴史が、映画化されています。
ヒトラーに屈しなかった国王
進撃してきたドイツ軍から降伏を迫られたノルウェーですが、無抵抗で国を明け渡すことはなく、抵抗を見せました。
その後押しとなったのが、「象徴国王」として政治的な決定権はないながらも、毅然とした態度で「ただでは降伏しないノルウェー」の意思を示したホーコン7世です。
小さな国の象徴としての国王に何ができるのか、というホーコン7世の苦悩がリアルに感じられる名作です。
「ヒトラーに屈しなかった国王」感想 象徴としての国王の立ち方(ネタバレあり) - 怠惰ウォンテッド
ナチスが最も恐れた男
ナチス占領下のノルウェーで、レジスタンスの中心人物として抵抗を続けた実在の工作員マックス・マヌスを描いた伝記映画。
ゲリラ戦・非正規市街戦をリアルに再現した戦闘シーンや、母国を救おうと過酷な状況で奮闘する主人公の人間描写が見どころです。
主演のアクセル・ヘニーは、現在ではハリウッドで活躍する代表的なノルウェー人俳優として知られています。
フィンランドの第二次世界大戦
こちらも北欧の国フィンランド。この国の第二次世界大戦はちょっと特殊な状況で、「国境を接しているソ連が大軍で攻め込んでくる中で、わずかな部隊で抵抗する」という辛い戦いを強いられた歴史があります。
ウィンター・ウォー/厳寒の攻防戦
1989年公開のフィンランド戦争映画。圧倒的に不利な状況の中で、フィンランド軍が意外な善戦を見せてソ連による侵略を防いだ「冬戦争」を描いた作品です。
見も凍るような極寒の戦場で、まともな装備もない中で、母国を守るために決死の戦いに臨むフィンランド軍を生々しく描いた作品で、80年代歴史映画の隠れた名作として語り継がれています。
アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場
「冬戦争」で独立を保ちつつも不利な協定でソ連に領土を割譲し、さらなる侵略の危機も迫るフィンランドが、領土を取り戻すための反撃を試みた「継続戦争」を描く戦争映画。
フィンランド映画史に残る大作として製作され、「ワンシーンで使った火薬の量」でギネス記録にも載りました。
「ソ連に対抗するためにドイツと手を組む」という複雑な事情のもとで戦闘が展開されていて、「ドイツ軍が味方として登場する第二次世界大戦映画」というかなり珍しい作品でもあります。
「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」感想 敵の敵は味方(ネタバレなし) - 怠惰ウォンテッド
デンマークの第二次世界大戦
またまた北欧の国デンマーク。こちらも第二次世界大戦中はドイツの進行を受けて占領下に置かれ、そんな状況を変えようとレジスタンスが果敢に抵抗しました。
エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略
デンマークも一方的にドイツ軍に占領されたわけではなく、デンマーク軍は圧倒的な大国であるドイツの侵攻を食い止めようと必死に応戦しました。
そんな初期の戦い「ベーザー演習作戦」を描いたのがこの作品で、ライフルと機関銃くらいしか持たない弱小のデンマーク軍が、待ち伏せや奇襲を駆使して装甲車や戦車を揃えたドイツ軍になんとか抵抗しようとする姿をスリリングに描いています。
絶望的な戦いで追いつめられていくデンマーク軍の姿はかなり悲愴で、ショッキングな結末も合わさって、戦争の厳しさをまざまざと見せつけます。
ヒトラーの忘れもの
日本と同じように、第二次世界大戦末期はほとんど子どものような歳の青年まで動員したドイツ。
そんなドイツ軍少年兵たちが、戦後に捕虜となってデンマークでドイツ軍の撒いた地雷処理をさせられる姿を描いたのがこの作品です。
母国が独裁政権によって暴走したとはいえ、個人には罪のないはずの少年兵たちが非人道的な地雷処理を強いられていく様に、戦争の闇の深さを痛感させられる異色の作品として議論を呼びました。
誰がため
デンマーク映画史に残る超大作。ドイツ占領下のデンマークを舞台に、2人の男がレジスタンスとして戦いに身を投じる様を渋く描き出したヒューマンドラマ映画です。
「レジスタンス」と聞くとなんだか派手で華々しい気もしますが、現実は不利で終わりの見えない戦いの連続。そんな悲しく過酷な任務に身を置く男たちの生き様をまざまざと映し、戦争のむなしさをこれでもかと見せつける名作です。
その他の国の第二次世界大戦
第二次世界大戦はヨーロッパ全域を巻き込んだ大規模な戦争だったので、他にもいろいろな国のいろいろな出来事が歴史映画として映像化されています。出来事の起こった国ごとに、良作を紹介していきます。
ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦(チェコ)
「唯一成功したドイツ要人の暗殺作戦」であるエンスラポイド作戦を映画化した作品。
ドイツ占領下のチェコスロバキアで、イギリスにある亡命政府から派遣された特殊部隊が、ドイツ軍幹部のラインハルト・ハイドリヒを暗殺し、ドイツ軍の追手に果敢に抵抗するまでを描きます。
淡々と、しかし緊張感をもって描かれる暗殺作戦の進行が手に汗握り、その後ドイツ軍が壮絶な追撃をしてくる中で特殊部隊が諦めず抵抗していく様がスリリングに響きます。
この暗殺作戦をハイドリヒ側から描いた伝記映画「ナチス第三の男」もあります。
「ナチス第三の男」感想 伝記映画と呼ぶには掘り下げが浅い(ちょこっとネタバレ) - 怠惰ウォンテッド
コレリ大尉のマンドリン(ギリシャ)
第二次世界大戦中、ドイツ軍とイタリア軍によって占領されていたギリシャのケファロニア島を舞台に、イタリア軍将校のコレリ大尉と島の人々の交流を描くヒューマンドラマ戦争映画。
占領下でも戦闘とは無縁でおだやかな空気が流れていた島が、「イタリア軍の降伏」によって一転、ドイツ軍の暴走に傷ついていく地獄絵図がくり広げられます。
前半の人間ドラマから打って変わって、後半で展開される過酷な戦闘が戦争の悲惨さをハッと思い出させます。
杉原千畝 スギハラチウネ(リトアニア)
多くのユダヤ人難民にビザを発行し、彼らのドイツからの逃亡を助けて命を救った外交官の杉原千畝を描いた伝記映画。
唐沢寿明と小雪の主演で、ヨーロッパロケによって当時のリアルな空気を再現しながらストーリーが展開されます。
世界的に知られる日本の偉人の一人である杉原千畝の葛藤や決断を臨場感をもって観られる良作として必見です。
ダンケルク(イギリス・フランス)
まだドイツが優勢だった第二次世界大戦初期、イギリスやフランス、オランダなどの連合軍がダンケルク海岸まで追いつめられて絶体絶命の危機に陥る中で、イギリスから多くの民間船が救出に向かった史実を映像化した作品です。
「海岸の兵士たち」「イギリスから出向した船の乗員たち」「上空で救出を援護する戦闘機パイロット」の3つの時間軸を並行して描く異色作で、「インターステラー」などで知られるクリストファー・ノーラン監督ならではの映像美や演出美が観られます。
1944 独ソ・エストニア戦線(エストニア)
エストニアがドイツとソ連両方の侵攻を受けて占領され、「ドイツ軍に編成されたエストニア軍」と「ソ連軍に編成されたエストニア軍」が自国民どうしで戦わされたという地獄のような史実が描かれる戦争映画です。
大国の都合で悲惨きわまりない戦闘を強いられる男たちの境遇は想像を絶する悲惨さで、熾烈な戦闘シーンと合わさって目を覆いたくなるような惨劇が広がります。
まとめ
各国を舞台にした第二次世界大戦映画を観ると、この大戦がいかに複雑な状況だったか分かりますね。
また、さまざまな場面で、さまざまなかたちで犠牲者が出ていたこともうかがえます。
歴史を多角的に知る上でも、ここで紹介した作品はどれも重要な名作です。
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