日本ではNetflix配給映画として配信されましたが、本国アメリカでは2016年にアカデミー賞ノミネート作のひとつになるなど批評的に大きな注目を集めた「最後の追跡」。
銀行強盗をくり返す兄弟とそれを追うテキサスレンジャー2人のドラマを描く作品ですが、世界から絶賛されるのも納得の超良作でした。
一見シンプルな物語とその背景にあるテキサスの社会から、圧倒的な「人間味」と、「現代における西部劇のかたち」を存分に味わえました。詳しくレビューします。
「最後の追跡」あらすじ
2016年 アメリカ
監督:デヴィッド・マッケンジー
キャスト:クリス・パイン、ベン・フォスター、ジェフ・ブリッジス、ギル・バーミンガム
母親の遺した負債によって地元のテキサス・ミッドランズ銀行に農地を取られそうになっていたトビーとタナーの兄弟は、負債の返済のために銀行強盗をくり返していた。
一方で、立て続けに起こる強盗事件について、テキサス・レンジャーのマーカスが捜査をすることになる。定年間際のマーカスはこれが自分の最後の大仕事だと考えており、相棒のアルベルトと順調に捜査を進めていくのだった。
やがて、マーカスたちの捜査の手はトビーたちに迫っていき……
「最後の追跡」感想
渋い人間ドラマとしての極上の魅力
最初は軽い気持ちでなんとなく観はじめましたが、これがかなり渋くていい作品でした。
何よりも「人間ドラマ」として極上です。トビーとタナ―の兄弟、マーカスたちテキサス・レンジャーのコンビそれぞれの人間味が滲み出るような会話ひとつひとつが、各人物の背景にある人生を想像させます。
テイストとしては「強盗犯とそれを追う捜査官のサスペンス」ですが、あくまでストーリーの根幹にあるのは「貧困から抜け出そうと(自分は無理でも子どもたちを救おうと)足掻く男の物語」と、「仕事人としての人生を終えようとしている男の物語」です。
おそらくどちらも「今のアメリカ社会でよくある人生のかたち」なのでしょうが、それがじっくりと描かれることで、ここまで体温のある生きた物語として感じられるのが印象深かったです。
自分の人生全てを切り捨てるようにしながら「息子たちが自分のようにならないように」と動くトビー、そして「自分より年若い相棒が、もう老いていくだけの自分より先に殉職する」という悲劇に見舞われたマーカス。どちらも、本人の心境を考えるとやりきれない切なさが漂います。
現代アメリカにおいて「西部劇」の遺伝子を見せる
この「最後の追跡」のもうひとつの大きな見どころが、「現代のテキサスを生々しく描く社会描写」です。
テキサスといえば、いわゆる「西部劇」の舞台として長く人気を集めてきた土地。開拓時代には可能性と自由に包まれ、ときには暴力と危険に満ちた場所として人々が生きていました。
それが現代にはどうなっているか。「古き良きアメリカの空気が漂う牧歌的な田舎」といえば聞こえはいいですが、その実情はこの映画で描かれるように、「貧困と諦めムードが漂うさびれた土地」なんでしょう。
そんな退廃の根底にあるのは「銀行」。つまり資本を持っている層。最近だと「マグニフィセント・セブン」でも実業家が敵として人々を蹂躙する様が描かれたりと、いつの時代も小市民は社会の構造の中で食い物にされてきたんだね、と思わされます。
その中で、トビーは(手段はどうであれ)自力でその状況から抜け出そうと足掻いています。
彼に協力する会計士が語ったように「自分の土地や財産や家族を自分で守る」というスタイルは、法律による治安が保たれないこともあった西部開拓時代からのテキサスの伝統なんでしょう。
このアウトロー的な信念の表し方をはじめ、強盗の現場に居合わせたカウボーイの爺さんが何の容赦もなくトビーたちに銃をぶっ放したり、警察が来るより先に自警団の市民たちが重武装でトビーたちを追いかけてきたりと、「住民による自衛・自治」が現代にも残り続ける西部劇の空気を感じさせます。
ちなみに、マーカスたちの「テキサス・レンジャー」という仕事(保安官みたいなもの)は、19世紀前半に誕生して今も存在するアメリカ最古の法執行機関だそうです。
都市部に現代的なオフィスを構え、今風の組織になりながらも「テキサス・レンジャー」という名前でカウボーイハットをかぶって仕事を続けているのは、西部劇の血が受け継がれてるみたいでなんだかワクワクしますね。
「主人公以外」の登場人物の魅力
主人公であるトビーとマーカス以外の登場人物が魅力的なのも、「最後の追跡」の見どころですね。
なかでも印象的なのは、やっぱりトビーの兄タナ―と、マーカスの相棒アルベルトでした。
タナ―役を演じたベン・フォスター、個人的にフェイバリット俳優の一人です。西部劇映画の「3時10分、決断のとき」でもそうでしたが、彼はちょっと頭のネジが飛んだ狂人一歩手前の男の役がめちゃめちゃ映えますね。
タナ―の行動は間違いなく「悪」で、射殺されてもやむなしの人間なんですが、その散り様にもどこか風情や美しさがありました。「主人公の兄」という立場でありながら、西部劇における「魅力的な悪役」のポジションをこなしてるのは凄いですね。
そして、個人的にめちゃめちゃ素敵だと思ったのが、マーカスの相棒アルベルト。先住民の血を引く彼は、自身の価値観と信念、さらに小粋なユーモアも持ち合わせていて、とにかく魅力的な人物です。
マーカスの無粋なジョークを軽く流して、彼からも一目置かれてる感じが「いいバディ」であることを表してました。それだけに、アルベルトのあまりにもあっけない最期が本作で一番ショッキングなシーンだったかもしれません。
まとめ:最高のエンタメヒューマンドラマ映画でした
現代アメリカの現実を突きつけ、懸命に生きる男や人生の酸いも甘いも知った男の人間味を渋く描き、ひとつのサスペンスアクションとしてもしっかりと魅せ、現代のテキサスの中での「西部劇の味」も感じさせてくれる「最後の追跡」。
幾重にも重ねられた見どころが合わさって、味わい深い魅力を見せてくれる最高のエンタメヒューマンドラマ映画でした。
アカデミー賞ノミネートも納得の傑作です。