「ナチスがUFOで月に逃げ、月面基地を作って生き延びていた」という非常識すぎるストーリーと、「製作費をクラウドファンディングで募る」という斬新すぎる製作スタイルで凄まじい話題を呼んだ「アイアン・スカイ」。
そのまさかの続編として作られたこの「アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲」は、やばすぎた前作をさらに上回る、正気の沙汰とは思えない世界観の超問題作でした。
危険すぎるパロディを供給過多なほど詰め込んだ、激ヤバな内容を詳しくレビューしていきます。
「アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲」あらすじ
2019年 フィンランド、ドイツ、ベルギー
監督:ティモ・ヴオレンソラ
キャスト:ララ・ロッシ、ウラジミール・ブルラコフ、キット・デイル、 ウド・キア
月のナチスとの戦いと、その後の核戦争で地球が壊滅した未来。わずかな生存者たちは、ナチスの月面基地で細々と生き延びていた。
そんなある日、地球の地下には広い空洞と豊かな自然があり、そこには無限のエネルギー「ヴリル・ヤー」があるという事実が分かる。
月面基地のリーダーの娘であるオビは、資源枯渇の危機にある人類を救うために仲間を連れて地球の地下世界を目指すのだった。
ところが、そこではヒトラーをはじめとした歴史上の有名人たちがいて……
「アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲」感想
映像の迫力はハリウッド大作級
あらすじを書いてるだけで頭痛くなってきそうなストーリーの「アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲」ですが、SFアクション映画としては普通に良くできています。
というのもこの作品、小国フィンランド制作のB級映画としては異様なまでに金がかかってるんですよね。
もともと結構な額の制作費をフィンランド映画財団から提供された上に、クラウドファンディングでも少なくない額のカンパを集めたからちょっとしたハリウッド映画並みの予算を確保。
おかげで映像面のクオリティはまさにハリウッド顔負けで、やたらと規模のでかい破壊描写やスターウォーズみたいな宇宙描写など、「あれ?これってもしかしてまともな映画なのかな?」と錯覚させる映像美を見せてくれます。
大自然の中で恐竜たちが生きる地下世界とか、スチームパンク好きにはたまらない月面基地とか、まさかの宇宙戦艦ドッグファイトとか、派手な映像の迫力を楽しむには申し分なしです。
全世界ありとあらゆる方面に喧嘩を売っていくスタイル
映像がまともな一方で、ストーリーは狂ってるとしか言いようがありません。ビッグウェーブ級の悪ノリにノッてノッてノリまくってます。
まず、冒頭の「ジョブズ教」のくだりからブラックジョークでお腹真っ黒だし、隙あらば皮肉を挟む製作スタイルでツッコミの手を休む間もありません。
主人公オビたちが地球の地下世界に降り立ってからはその勢いがさらに加速して、ヒトラーにマーガレット・サッチャーに毛沢東にマーク・ザッカーバーグにスティーブ・ジョブズに……と、どれから突っ込もうか目移りするほど。
ローマ法王とオサマ・ビン・ラディンが仲良く並んで恐竜戦車で追いかけてくる、というあらゆる意味でヤバすぎる描写もあったりして、まるで「どれだけ多くの社会から敵視されるか」の世界記録に挑戦するかのような気概が感じられました。
社会体制も思想も宗教も、全世界のあらゆる方向に喧嘩を売りにいくスタイルは、一周まわって「あらゆる社会を公平におちょくる」という平等主義の精神すらうかがえます。
世界におけるフィンランドの複雑なポジション
どれほど怖いもの知らずだったらこんなストーリー書けるんだ、と言いたくなるほどひどい内容の「アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲」ですが、ここまで狂った物語を映画化できるのもフィンランドならではなのかも、とも思えます。
というのも、フィンランドは第二次世界大戦中に「ソ連の侵攻を防ぐためにドイツと手を組んだ」という、厳しくて暗い歴史を持っていたりします。
その結果、戦後の国際社会では「ドイツと仲良くした国」という目で見られたりと、かなり複雑なポジションに長らくありました。
「ドイツとソ連という主義の違う2つの大国に挟まれていた」というだけでとんでもなく不遇な立場に立たされたわけで、その歴史を乗り越えて北欧の豊かな国として発展した、という事実も本作の誕生に影響を与えたのかもしれませんね。
まあ、全く関係ないのかもしれませんが。
フィンランドの第二次世界大戦については詳しくはこちらの映画で↓
「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」感想 敵の敵は味方(ネタバレなし) - 怠惰ウォンテッド
まとめ:今年一番狂った映画だと思う
あらゆる社会/組織/文化に日和ることなく、一切の手加減も配慮もなく、できるだけ多くのタブーに素手で触れまくった「アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲」。
2019年で一番狂った映画と言っても過言ではないでしょうが、その背景にちょっとだけうかがえるフィンランドの歴史とか、アクション映画としての異常なクオリティの高さとか、作品としても面白いポイントがしっかりありました。
マジで色々とヤバすぎるので、こういうブラックで不謹慎なネタを「ヤバすぎでしょwww」と笑いながら楽しめる方にのみおすすめします。
あと、吹替俳優たちの小ネタがかなり爆笑できたので、吹替版で観ることを強くおすすめします。