「火災で消防士が死亡」「事件で警官が死亡」とニュースで報道され、「彼は英雄だった。ヒーローだった」と語られる。特にアメリカの映画やドラマではよく観られる光景じゃないでしょうか。
では、ヒーローだった「彼」はどんな人物だったのか。どんな風に喋り、どんなことを考え、どんな人を愛した人物だったのか。
そこに真っすぐにフォーカスを当てたのが、この「オンリー・ザ・ブレイブ」という映画でした。森林火災に立ち向かったヒーローたちの実話を描いた本作を詳しくレビューしていきます。
※結末に触れるネタバレをしているので要注意です
「オンリー・ザ・ブレイブ」あらすじ
2017年 アメリカ
監督: ジョセフ・コシンスキー
キャスト:ジョシュ・ブローリン、マイルズ・テラー、ジェームズ・バッジ・デール、テイラー・キッチュ、ジェニファー・コネリー、ジェフ・ブリッジス
毎日を自堕落に生きていた青年ブレンダンは、恋人が妊娠して娘が生まれたことをきっかけに、人生を変えようと森林消防隊に入隊する。
指揮官エリックにしごかれる過酷な訓練の日々の中でブレンダンは少しずつ成長し、また彼の所属する隊も実績を重ねて、ついには正式に州から認可される消防隊になるのだった。
そんな中、ひときわ大規模で深刻な森林火災が発生。ブレンダンたちは困難な消火任務に挑んでいくが……
「オンリー・ザ・ブレイブ」感想
「ヒーローたちの素顔」を影まで描き尽くす
予告編やジャケットの災害パニック映画っぽさとは裏腹に、ストーリーは「消防隊員たちのヒューマンドラマ」がメインでしたね。このギャップがありながら、物語としての重厚さでしっかり魅せて高評価を集めてる時点でまず傑作なのが分かります。
そして、彼らが仕事中からプライベートまで、「ありのままの人間」として描かれてるのも印象的でした。
街の英雄として讃えられる消防隊員たちですが、もちろん普段は「普通の兄ちゃんやおっちゃん」なわけで、特に紳士的で模範的というわけでもありません。
下品なジョークはかますし、酔って騒ぐこともあるし、子どもじみたいたずらを仕掛け合うこともあります。田舎の体育会系の集団らしい「やんちゃ」っぷりは、僕みたいなインドア派の文化系からしたら「絶対にこの人たちとは友達になれないだろうな」と思う部分がいっぱいです。
さらに、主人公ブレンダンやもう一人の主役であるエリックをはじめ、みんな家族との問題も抱えて悩んでいたりする描写も、彼らが「ごく普通の人間」であることを感じさせてくれました。
ですが、そんな武骨な男たちが、仕事モードに入るととにかくかっこいい。頼もしくて力強くて、むやみやたらに威勢のいい雰囲気が何より魅力的に映ります。
いいところも悪いところもたくさんある大人の男たちが、仕事になるとがらりと雰囲気を変えてヒーローになる。このギャップが完ぺきで、こういう「働く男萌え」「仕事着萌え」を唱える女性の伝えたいことが分かった気がしました。
「〇人が死亡」の裏にある人生を痛感させられる
そうやって魅力的に描かれたからこそ、この森林消防隊の結末は胸を抉られます。
「実話に基づくらしい」という以外の前情報一切なしで観ていたので、「偵察で離れていたブレンダン以外は火に飲まれて全員死亡」というあまりにもあんまりな結末には絶句させられました。
彼らがどんな会話をして、どんな顔で笑って、どんな家族を持っているか観てきたからこそ、その当人たちが絶望的な状況で焼け死んでいった、という描写に言葉を失います。
映画としてストーリーを追っていただけの自分ですらこんなに動揺したんだから、遺族の気持ちはどれほどのものだったでしょうか。知らせを受けた奥さんたちの張り裂けるような泣き声は、聞いていると胸がざわつきました。
「大規模な森林火災で〇人が死亡」という海外のニュースを見て「ああ気の毒に…」と感じることは誰もがあると思いますが、その報道の数字の裏にはこういう本物の人生や人格があって、それが失われているんだ、ということを見せつけられます。
この映画の中で描かれてるのは想像を絶するほど悲惨な史実ですが、こういう人たちがいて、家族を想いながら火災と戦って死んでいった、ということを知れてよかったと思いました。
「自分の夫・父親は街を守るために果敢に火災と戦った」という事実が映画というかたちで世界に知られることで、遺族の方々にとって少しでも救いになっていることを願うばかりです。
まとめ:ニュースが無心で見れなくなる
軽い気持ちで観はじめたら、想像以上に心を打たれました。これは長く記憶に残る一作になりそうです。
ここまでインパクトと感動を感じさせてくれるのも、過酷な実話を伝える、という以上に「ヒューマンドラマ映画として傑作に仕上がっている」という大前提があるからこそでしょう。
ひとつひとつの事件や災害の裏に、こういう「現実に生きる(生きた)人の物語」があると考えると、もう「死者が出た」というニュースを無心では見られません。
ノンフィクション映画の歴史に刻むべき名作のひとつだと思います。