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「ガルヴェストン」感想・評価 時間はあまりにも重い(ネタバレあり)

ガルヴェストン [DVD]

「孤独な殺し屋と孤独な少女の逃避行」というシチュエーションで多くの人がまず思い浮かべる映画は「レオン」でしょう。設定の類似点から、この「ガルヴェストン」もレオンと並べて語る人が多いみたいです。

が、実際に観てみると、レオンとは真逆のテーマ性を持った映画だと思いました。詳しくレビューします。

 

「ガルヴェストン」あらすじ

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2019年 アメリカ

監督:メラニー・ロラン

キャスト:ベン・フォスター、エル・ファニング、リリ・ラインハート、 ボー・ブリッジス

 

マフィアの鉄砲玉として汚れ仕事をこなしてきたロイは、自分の肺に大きな病気があることを知る。さらに、ボスから裏切られて消されそうになり、同じく組織から消されそうになっていた娼婦のロッキーと成り行きで逃げることになるのだった。

ロッキーとその妹であるティファニーを連れ、静かな港町ガルヴェストンに隠れ住むことに。自分の寿命が残り少ない中、ロイは後に残されるロッキーたちに幸福な人生を送ってほしいと願うようになるが……

 

「ガルヴェストン」感想

全然「レオン」とは似てないよ

この映画を「バッドエンドなレオン!」みたいに語る人たちはちゃんと内容観たのか?と突っ込みたくなります。

まず、そもそものテーマが真逆です。レオンは「一人の男の死に様」を見せましたが、この「ガルヴェストン」は「一人の男が生き続けた話」を描いてます。

 

「ガルヴェストン」の主人公のロイは死にませんでした。肺の病気も結局は命に関わるようなものではなく、ごく普通に老齢になるまで生き続けます。

一方で、ロイが自身の死後も幸せになってほしいと思っていたロッキーは、マフィアに暴行されて殺されるという無残すぎる最期を遂げます。

それを目の当たりにしたロイもマフィアのボスへの復讐を成し遂げることはできず、逆に彼らの罪を被せられて20年も服役し、出所後は寂しい老後を送ることに。あまりにも惨めです。

 

これは「バッドエンドなレオン」とか「女の方が死ぬレオン」とかいう作品ではなく、「想像を絶する過去を抱えながらも生きた男」を生々しく綴ったヒューマンドラマだと思います。

それも「生き様」なんてかっこいいものではなく、「守りたいものを守れず自分だけ生き残ってしまい、無力感ややるせなさに苛まれながら、それでも体が死なないから生きなければいけなかった男の半生」という容赦のない現実です。

 

「20年」という時間の重さが響く

じゃあ、ただ孤独で無力な男の生きる姿を悲劇感たっぷりに見つめるだけの映画なのかと言われたらまた違っていて、ちゃんと観客に訴えかけるメッセージ性もあったと思います。

 

この映画の最も大きなテーマは「時間の重さ」ではないでしょうか。ストーリーの中では「20年」という時間の重さが強調して描かれます。

まず、中盤でロイがロッキーに語りかけるシーン。ロッキーは自分がもうどん底から抜け出せないと嘆きますが、彼女よりおよそ20歳も年上のロイは、彼女の人生を「まだどうにでもなる、3回でも4回でもやり直せる」と諭します。

人生の全盛期を裏社会での汚れ仕事に費やしてしまったロイからすれば、そりゃあロッキーなんてまだまだ可能性に満ち溢れた子どもでしょうね。20歳年下の若者が人生を悲観してたら、「まだ何だってできるだろう」と言いたくなるでしょう。

それだけ20年という歳月が大きく重いものだと知らしめられます。

 

そして、そんなロッキーが最悪のかたちで死んでしまい、一生消えない後悔を抱えながらロイが年老いた20年後。

出所後の彼を訪ねてきた、大人になったティファニー(ロッキーの敵討ちと引き換えにロイが唯一守りきれた存在)に対して、ロイはロッキーを救えなかった話を「もう20年も前の話だ」と語ります。

映画的には「マジか…」と絶句せざるをえないバッドエンド的な展開も、それから20年も経てば当事者ですら「もう大昔のこと」と静かに語れるようになる、という点に時間の重さを感じずにはいられません。

壮絶なバッドエンドの後も、その傷跡を抱えて、ひとつの記憶として覚えているまま、人は何年も何十年も生きていく、という事実を見せつけられた気がします。

 

人はどんな悲劇に見舞われても体が死なない限りは生きていくし、ボロボロになった心もいずれは(傷や闇を抱えたままだとしても)穏やかさを取り戻していくし、全ての終わりのような悲劇もやがて「過去の出来事のひとつ」として語るようになる、という当たり前だけど過酷な現実を、ロイの半生から実感させられます。

 

まとめ:ストーリーの受け止め方によって評価は変わる

「映画的にはここがストーリーの区切りだけど、その後も登場人物たちの日々は続いていくよね」という描写のしかたで一人の男の人生を綴った作品なので、ヒューマンドラマ映画としてはあまりすっきりしないエンディングなのは間違いありません。

そこに「数十年という時間の重み」を感じて余韻に浸れるか、あまりにも衝撃的な展開に打ちのめされて作品のテーマを受け止めきれずに終わるかで、評価が分かれる作品でしょう

個人的には、心に残る強烈なカタルシスがある傑作だと思いました(とても気軽にもう一度観ようとは思えないけど)。

 

そして、断じて「劣化版バッドエンド版レオン」なんかじゃありません。

ガルヴェストン(字幕版)

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  • 発売日: 2019/10/02
  • メディア: Prime Video
 

 

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