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「パージ:エクスペリメント」感想・評価 弱者の声はこうして無視される(ネタバレあり)

パージ:エクスペリメント (字幕版)

もはやアメリカのアクションホラー界きっての稼ぎ頭になった大人気シリーズ「パージ」。

その4作目であり、パージ制度の試験段階を描いた「パージ:エクスペリメント」は、さすがにマンネリ化しつつあったシリーズに新しい風を吹き込んだ良作続編だったと思います。

詳しくレビューしていきます。

 

「パージ:エクスペリメント」あらすじ

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2018年 アメリカ

監督:ジェラルド・マクムーリー

キャスト:イラン・ノエル、レックス・スコット・デイヴィス、ジョイバン・ウェイド、マリサ・トメイ

 

過激派政党「新しいアメリカ建国の父たち(NFFA)」が政権を取った近未来のアメリカでは、全ての犯罪を12時間だけ合法化して人々の"心の浄化"を図る「パージ」制度が試験段階に入っていた。

実験場となったニューヨーク市のスタテン島では、地元のギャングの元締めであるディミトリやその元恋人でパージ反対派のナイア、彼女の弟イザヤたち住民が、初のパージ開始を迎えていく。

当初は穏やかに進むかに見えたパージは、予想外の混沌に包まれていき……

 

「パージ:エクスペリメント」感想

アクション映画としては過去最高のクオリティ

1作目から一貫して低予算ホラーアクション映画として作られてきた「パージ」シリーズ。

この4作目「パージ:エクスペリメント」もハリウッドの相場と比べたら圧倒的に低予算な作品ですが、アクション映画としてのクオリティやスケール感はシリーズ最高レベルだったと思います。

規模や派手さで言えば前2作「アナーキー」「大統領令」も同格だったかもしれませんが、「アナーキー」は画面が暗すぎてせっかくのアクションが見づらかったり、「大統領令」はCG合成の編集の甘さが目立って全体的に雑だったりと、今ひとつな部分も多々ありました。

それに対して、本作「エクスペリメント」は全てにおいて高水準で、いちばん丁寧な仕上がりだったと思います。

 

特に大きく貢献していたのは、主人公ディミトリを演じたイラン・ノエルのアクションでしょう。映画関係の超名門校を首席卒業したという気鋭の注目俳優だそうですが、その動きの切れ味はかなり本格的です。「アナーキー」の主演だったフランク・グリロ(以前からスタント俳優としてかなり実績のある人)にも引けを取らないレベル。

フランク・グリロはもっと有名俳優になれるはず - 怠惰ウォンテッド

後半で乱入してくる刺客たち(NFFAがパージを盛り上げるために送り込んだ傭兵や過激派)とディミトリたちの戦闘はかなり熱かったですね。「アフリカ系ギャングVS武装KKK」なんて他の映画じゃ絶対ありえないシチュエーションでしょう。

 

まだ「パージ」が定着していない一夜

本作はシリーズ唯一の「まだパージ制度が定着していない世界のお話」なので、特にストーリー前半は、まだまだパージらしからぬ緩い雰囲気が漂っていたのが面白かったですね。

みんな「過激なハロウィン」くらいの感覚で平和にパーティーを開催してたりして、パージに走るチンピラもせいぜい窃盗や器物損壊をはたらく程度。「不気味なマスク&武装」というこれまでのシリーズ作ならすぐ殺戮を始めるであろう奴らが、自分たちを見て市民がビビったことに満足して去っていくのは笑えます。

本当に殺人を犯した奴を「普通そこまでやるか…?」と皆がドン引きで受け止めてるのが、パージ黎明期の呑気さを象徴してました。

まだまだまともな倫理観の人が多数派を占めてるのは、このシリーズだとかえって異質で新鮮です。

 

「弱者の勝利」とは裏腹にパージ制度は成立

「パージ」シリーズのテーマとして常にあったのが「虐げられる貧困層の政府への反逆」というものですが、「パージ制度を成立させたいNFFAの本音」が強くストーリー中に出てくる本作では、そのテーマもより顕著に表れてました(何せ、NFFAの幹部がはっきり「もう貧困層の面倒は見切れない」と明言しますからね)。

 

本作の主な主人公は、地元ギャングの元締めであるディミトリ、その元恋人で「真っ当なかたちで貧困から抜け出す努力をすべき」と考えているナイア、彼女の弟で貧しさから薬の売人への道に入ろうとするイザヤの3人。いずれもアメリカで「貧困層」とされるステレオタイプな人たちです。

それぞれの言動にはより直接的に「アメリカの格差社会への批判や皮肉」が表れているわけですが、その中でもディミトリの言葉や行動は印象的でした。

 

ディミトリはギャングのボスではありますが、「自分が悪人であることは自覚していて、ギャングも無秩序に社会を壊すべきではないと思っていて、若い世代はできれば自分と同じ道には進まない方がいいと思っている」男です。いわゆる任侠的な気質を持ったギャングです。

そんな彼が「戦闘力のある組織を持った唯一の貧困層の味方」として活躍していくのは、皮肉でありますがやっぱりかっこいいですね。

 

果敢にNFFAの回し者たちに立ち向かったディミトリのおかげで多くの貧困層が救われて、最後に彼は「街を救ったヒーロー」として称賛されるわけですが、それとは裏腹にパージ制度は「大きな成果の上がった素晴らしい制度」として全国化されていきます。

個人単位で見たらディミトリのように英雄的な人物もいたし、大多数の市民は力を合わせて暴力の夜を乗り越えたわけですが、彼らの奮闘や気持ちは「弱者の声」としてNFFAに握りつぶされて、結局は無視されていきます。

現実の社会の最前線で起こっていることなんて全く可視化されずに、世の中はより大きな力に流されて動いていく、というのをこの映画のストーリーが象徴してたようにも思えました。

 

まとめ:現代社会を象徴する映画かもね

「パージ」シリーズはただのぶっ飛び系ホラーアクション映画ですが、そのテーマ性は意外と現代社会の闇を的確に突いてる部分もあるんじゃないでしょうか。

現に、世界全体がディストピア的な社会に向かってる感じもするし、こういう極端な制度改革が起こらないとも言えません。さすがにパージはないだろうけど。

 

現在すでに完結編となる5作目の製作が進行中だという「パージ」シリーズ。一部ではシルベスター・スタローンが出演するとか、1作目の主演だったイーサン・ホークが再出演するとかいう噂も飛び交っているそうです。

衝撃的な世界観をくり広げた異色シリーズの最終作がどんなものになるか、今からめちゃめちゃ気になりますね。

パージ:エクスペリメント (字幕版)

パージ:エクスペリメント (字幕版)

  • 発売日: 2019/08/20
  • メディア: Prime Video
 

 

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