巨匠ブライアン・デ・パルマの久々の監督作で、ハードボイルドなクライムサスペンス。そんな売り文句からのあまりの面白くなさに愕然とさせられました。
ヒッチコック作品みたいな昔の映画演出へのオマージュとしてもただただダサいと思ったし、ストーリーの抑揚のなさ、登場人物の魅力のなさも酷い。
かろうじて名監督としてのセンスを感じさせる部分もちらほらあるものの、作品としてのバランスが悪すぎる。詳しくレビューしていきます。
「ドミノ 復讐の咆哮」あらすじ
2019年 デンマーク、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ
監督:ブライアン・デ・パルマ
キャスト:ニコライ・コスター=ワルドー、ガイ・ピアース、エリック・エブアニー、カリス・ファン・ハウテン
デンマークの刑事クリスチャンは、勤務中に殺人犯と遭遇する。相棒のラースが犯人の攻撃を受けて重体になるも、自宅に銃を忘れるというミスを犯していたクリスチャンは犯人を確保できず、突然現れたCIAに犯人の身柄を横取りされてしまう。
一方で、犯人タルジはCIAに家族を人質に取られており、元特殊部隊という実力を買われてイスラム系テログループの確保を命じられる。タルジとCIA捜査官のジョー、そしてクリスチャンの奇妙な追跡劇が展開されていき……
「ドミノ 復讐の咆哮」感想
演出と音楽がいくらなんでも古すぎる
ブライアン・デ・パルマは1960年代から活躍している監督で、影響を受けたのはアルフレッド・ヒッチコック。古風なサスペンス演出が好きなのも分かります。
けど、いくらなんでもこれはあんまりじゃない?と言いたくなるくらいありとあらゆる演出が古臭く感じました。「昔ながら」と「古臭い」は全然違うでしょう。
カメラワークはのっぺりと遅く、アクションには緊張感なし。現代の機材で昔のカメラワークをなぞっただけな感じが全開です。これなら古い機材でわざとレトロに撮った方がよかったんじゃないでしょうか。
カット割りや場面転換の古臭さも気になります。今っぽい高画質で40年代のモノクロ映画みたいな切り替わり方をするのが違和感でしかない。
こういう古い演出はまだ映画が「お芝居/演劇の延長」として見られていた時代だからこそのものであって、現実と見紛うほどの高画質が前提の現代機材でこんな演出されてもただただ嘘っぽくなるだけなんじゃないかな……
あと、悪い意味でめちゃめちゃ目立ってたのが音楽。ダサくないですか?いくらなんでも。
テレレーン、ドロドロドロドロ……デデーン!!!
みたいな劇伴音楽がマジで展開されるから、観客を笑わせようとしてるのかと本気で思ったくらいです。
いや、よく言えば「ヒッチコックっぽい」かもしれませんよ?でもそれをそのまま現代の刑事サスペンスに合わせてかっこよくなるわけなくないですか?
「昔ながらの古風なサスペンス」は今も良作がたくさんありますよ。でもそういうのは「演出は現代的に洗練されつつ、情緒として昔ながらの雰囲気を作り出している」から面白いと思えるんであって。
ガワだけ現代クライムサスペンスをやりながら演出を古くしただけで面白くなるわけなくない?と思ってしまいました。
ストーリーと登場人物に魅力がない
ストーリーもふつうに間延びして単調で面白くなかった。「復讐の咆哮」なんて邦題をつけたのはどこのバカなんでしょうか。
まず主人公クリスチャンが「ふつうに凡ミスで銃を家に忘れる」みたいなダメダメっぷりからスタートするし、その後も特に惹かれるような人柄が見えないから魅力がゼロです。主役なのに応援する気になれないって致命的。
物語的にはもう一人の主人公と言ってもいいタルジも、元特殊部隊というわりには目を見張る活躍シーンもなければ感情移入できるような人間味もありません。人質にされた家族とのカタルシスもク〇もなくあっさり死ぬし。
あと個人的に一番魅力がないと思ったのが、クリスチャンと行動を共にする女刑事。こいつがクリスチャンの相棒と不倫してました~っていう要素とかいるか?と思ったし、ラストで「死んだ彼氏の復讐」という理由があるとはいえあまりにも安易にタルジを射殺したのには唖然とさせられましたね。今までの奮闘やタルジの人間描写は何だったの?
ガイ・ピアースはすごい
映像も音楽もストーリーも登場人物もグダグダな中で、唯一すげえなと思ったのがCIA捜査官役のガイ・ピアース。
やっぱり名のある実力派俳優は違いますね。いるだけで存在感がすごいです。彼が出てくるだけで画面全体が一気に引き締まります。
惜しむらくは、その役柄がストーリーの盛り上がりにあんまり関わらないポジションなことでしょうか。必要だけど重要じゃない脇役ポジション。彼がもっと目立つ配役だったら映画自体にもっと渋さが生まれたかもしれないのに。
まとめ:ブライアン・デ・パルマのファンから見ても厳しいんじゃない?
ブライアン・デ・パルマが名監督なのは疑う余地もないし、本作に彼の好きな演出が盛り込まれてることもよく分かりますが、とはいえあまりにも現代サスペンス映画として面白くないし洗練されてないと思いました。
これはブライアン・デ・パルマのファンから見てもちょっと厳しい出来だったんじゃないでしょうか。酷評してる人もけっこう多いみたいですね。
冒頭の幕開けシーンとか屋根での追跡劇とか光る部分もあるけど、そもそも撮影に時間をかけてなさそうだしロケーションも悪いしで、「じっくり作る金と時間がなかった作品なんだな」という感じ。
5か国の合作ということでプロデューサーもやたら多かったみたいだし、まさに「船頭多くして船山に上る」状態だったんでしょう。こんな落ち着かない状況で撮らされたデ・パルマも被害者なのかもしれません。インタビューではけっこう不満を語ってるみたいですね。