2021年にNetflixで配信が始まったオリジナル映画作品『アーミー・オブ・ザ・デッド』。
かなりの注目を集めて配信された本作ですが……その評価は賛否両論。ほとんど手放しで絶賛する人と、かなり厳しく酷評する人に二分された印象です。
では、どうして本作の評価はこんなことになったのか。酷評する人はどのような点を批判しているのか。まとめました。
『アーミー・オブ・ザ・デッド』は良作?駄作?
個人的には本作、決して悪い作品ではないと思います。というか、ゾンビ映画として考えるとふつうに上位に入る良作のはずなんです。
が、前評判がちょっと偉大過ぎましたね。あのザック・スナイダー監督が、あの『ドーン・オブ・ザ・デッド』以来のゾンビ映画を撮ったということで、ホラーやパニック映画ファンを中心に期待値が爆上がりしました。
もはや「面白さが約束された傑作」みたいな扱いで、カルト的な熱さえ帯びていたように思えます。
それに拍車をかけたのがこの予告編動画。これを見て「きっとド派手なパニック描写が満載の超ハイテンション大作なんだなあ……」と誰もが期待したはずです。
だからこそ、いざ配信が始まった後に「思ってたんと違う!」と落胆する人が多かったのでしょう。
実際、筆者もボリューム満点デカ盛りハンバーグを期待していたのに「高級牛肉を使ったお上品なハンバーグ(150グラム)」をポツンと出されたような気分になりました。
それも確かにいい料理なんだろうけど、俺が求めてたのはそれじゃねえんだよ……的な。
まとめると、『アーミー・オブ・ザ・デッド』は確かに良作です。少なくとも駄作ではないでしょう。
ですが、駄目な(多くの人の期待から外れた)部分も確かにいくつもありました。
『アーミー・オブ・ザ・デッド』はどこが駄目だった?
1.オープニングがクライマックス
まずは何と言ってもこれでしょう。
本作のオープニングムービーは素晴らしかったです。あれは間違いなく、ゾンビ映画の歴史に残る名カットの数々でした。
ゾンビ感染の蔓延でラスベガスが地獄絵図になっていき、白昼の大通りを埋め尽くす何万匹ものゾンビの群れ(ベガスだからみんな服装が派手)。そこをド派手に爆撃する米軍。
生存者の救出に奔走する米軍や傭兵と思わしき人々(主人公たちもこの中にいましたね)。
爆撃で吹っ飛ぶエルヴィス・プレスリーの格好したゾンビ。
重機関銃で頭からバラバラになるゾンビ。
明らかにゾンビだらけの場所に降下しちゃうクソバカ空挺隊員。
これを見て期待が高まらないゾンビ映画ファンはいません。「これからこんなハイテンションムービーを2時間も楽しめるのか!」と誰もが思ったでしょう。
そしたら本編は急に地味な展開になるんです。いや決して地味ではないですが、あのオープニングと比べたら明らかにスケールダウンを感じます。高まりに高まったこの感情をどこへ向ければいいの!?と困惑したでしょう。
一番ド派手で盛り上がりそうなシーンを、一番最初に持ってきてしまったことで、映像的な尻すぼみ感は拭えなくなりました。
2.予告詐欺すぎた
「オープニングが一番派手だったね……」というだけならまだ仕方ないんですが、このカットを使って予告編を巧妙に作ってあるのがまた質が悪いです。
予告ではいかにも「クライマックスではこういうド派手爆撃シーンがありますよー!」と言わんばかりの構成になっていたので、そりゃあ皆そういうテンションの映画を期待するでしょう。
さらに誤解を招くのが、予告編ではまるで本編の見せ場のように描かれたシーンが、序盤の作戦説明のイメージシーンで使われただけだったこと(屋外でゾンビの群れに囲まれながら円陣組んで銃をぶっ放し、鍵師のルドウィックが釘バットを構える場面です)。
まさかあれがただのブライ・タナカの脳内イメージ映像だなんて思わないじゃないですか。ああいうシーンがあると期待するじゃないですか!!
こういうことをされると、「予告編詐欺だ!」と言っちゃいたくなりますね……
3.伏線を回収しなさすぎる
せっかく盛り上がりそうな伏線を散りばめておいて、それをぜんぜん回収しない・活用しないのもちょっとなあと思わされましたね。
まずは、ヴァンデルローエさんが持っていた「相棒」こと電動ノコギリ。事前の準備であれだけ話題にしてたのに、戦いでの使用は「行き止まりの壁をぶった切って逃げ道を作る」だけでした。しかも使ったのコヨーテちゃんだし。
それもまあ活躍と言えば活躍なんですが、あれでゾンビをぶった切って切り抜けるシーンが欲しかったですよね。
そして「雨が降ると干からびているゾンビの群れが復活する」とコヨーテが説明するくだりも。
そんなこと聞いたら、実際に雨が降って大量のゾンビが復活してピンチ!という絵面を期待するじゃないですか……まさか最後までカンカン照りで何事もないなんて……
さらに言うと、ゾンビタイガーの扱いも消化不良です。
確かに彼はかっこよかった。インパクト抜群でした。「芸人に飼われてたトラが逃げてゾンビ化した」という、ラスベガスならではの背景もナイスでした。
それなのに出番が、裏切り者のマーティンを食い散らかしただけ……その後は特に出番もなく、最後は核爆弾でドーン。
あれだけ中ボス感があったんだから、ぜひ登場人物たちと戦って決着をつけてほしかったです。
4.個性の濃いキャラクターたちがあっさり退場していく
『アーミー・オブ・ザ・デッド』の魅力のひとつがキャラの濃さで、確かに個性豊かな登場人物たちは強烈なインパクトを放っていました。
特にコヨーテ、ルドウィック、ヴァンデルローエ、ヘリ操縦士のピーターズ、赤バンダナのお姉さんあたりは最高でした。皆タフでユーモアがあってかっこよかった。
な・の・に、せっかくのキャラクターがわりとすぐ死ぬ!
序盤で1時間以上かけて、中盤でも何十分も尺をとってキャラへの肉付けをして人間味を生んだのに、それをこんなにあっさり退場させていくなら何のためだったの!?と思ってしまいました。
5.人間ドラマがやっぱり長すぎた
もともと「ゾンビ映画で148分はやべえ」と言われていた本作ですが、人間ドラマの濃厚さを売りにしていたわりには、ちょっと冗長に感じた人が多かったみたいですね。
やっぱりさすがにこの尺は長すぎたみたいです。
特に主人公と娘ちゃんの親子ドラマ。妻を失ったことが溝になって「許す/許さない」というパニック映画の定番ストーリーがくり広げられましたが、正直言ってちょっと怠かったですね。
スカッとするゾンビアクション映画を期待していたところであの反抗期っぷりはイラっとします。
確かに「ザック・スナイダーが亡くなった娘のことを思って盛り込んだエピソードらしい」と知った後は見方が変わって共感も感動もできましたが、そういうメッセージ性を込めるにしても、もう少しうまく表現しつつエンタメ作品としての魅力にもつなげられたんじゃないかな……と思えます。
6.真田広之の無駄遣い
あんなに存在感たっぷりに出てきた真田広之の出番が少ないよ!存在意義が薄いよ!
こういう黒幕っぽい悪役は最後にひどい死に方するオチが待ってたりするものですが、彼に関してはマジで冒頭出てきただけで出番ほぼ終了でしたね。
まあ、世界中で話題の大作に日本人キャストがゲスト出演したと思えば喜ばしいことですが……もうちょっと何か、ちょっとでも目立つ場面が欲しかった。
余談:『エイリアン2』へのオマージュが多かったのは大好き
駄目だったところとは何も関係ない話なんですが、ところどころ『エイリアン2』のオマージュらしきシーンがあったのは嬉しかったです。
終盤でピーターズが一回自分だけヘリで行っちゃったシーンはまさしく「ビショップの裏切り者ー!」の場面だし、マーティンが仲間の逃げ道塞いで一人だけ逃げた挙げ句にゾンビタイガーに食い散らかされたシーンもバークっぽいし、赤バンダナのお姉さんが無双する序盤の戦闘シーンはバスクェス感がありました。
こういう遊び心は好き。
まとめ:前日譚をひとつの映画として観たい
悪い作品ではなかったけど、突っ込みたいところは山ほどあるゾンビ大作、それが『アーミー・オブ・ザ・デッド』でした。
ひと言で感想を言うなら「あのオープニングの前日譚をひとつの映画として作ってほしい」です。本作を観て不満を感じた人の9割がそう思ってるんじゃないでしょうか。
ラスベガスにどんどんゾンビパニックが広がっていくアクションパニック満載の前日譚が観てえ。89分くらいで。
本作を観てると『デイライツ・エンド』を思い出しました。B級だけど、本作の銃撃戦のクオリティそのままにボリュームアップみたいな感じの良作です
あと、こういうおバカアクション系ゾンビ映画ならリメイクの方の『デイ・オブ・ザ・デッド』も好きですね
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