安里アサト氏原作、電撃小説大賞の大賞受賞作をアニメ化したSFアクション大作『86 エイティシックス』。
2021年春アニメのなかでも、特に異色作として話題を集めてきました。
ライトノベル原作らしい軽快な描写がありながらも、超シリアスな世界観とCGによるハイクオリティな戦闘描写、その中で描かれるエイティシックスたちの生き様・散り様が視聴者に衝撃を与えていますね。
そんな『86 エイティシックス』ですが、原作既読勢の多くが「ぜひ原作も読んでみて!」と強く主張しています。筆者もそんな原作ファンの一人です。
では、具体的に『86 エイティシックス』のアニメと原作にはどんな違いがあるのか?なぜ原作を読んでほしいのか?ポイントをまとめました。
『86 エイティシックス』のアニメと原作の違い
原作は濃密な心理描写、アニメは繊細な演出が見どころ
原作既読勢からアニメ『86 エイティシックス』を見たときの印象として、アニメは小説のように言葉で説明できる余地が少ない代わりに「見せ方」にこだわってるなー、という感じでした。
『86 エイティシックス』原作は、ライトノベルの平均から見てもかなり文章量が多いです。戦闘描写や情景描写もさることながら、登場人物たちの内面を描くことに多くが割かれています。
レーナが、シンが、ライデンやクレナやアンジュやセオが、どんなことを思って動いているのか、原作ではかなり細かく伝わります。
一方のアニメは、背景のちょっとしたアイテムや色使い、影、アングルなど、細やかな演出でメッセージを伝えてくれていますね。
どちらも「じっくり読み込む(見入る)ことで、より深く作品を理解できる」という点では共通しています。
世界観などの細かい説明は原作の方が丁寧
アニメ『86 エイティシックス』の批判ポイントとして多く指摘されているのが「世界観が複雑で分かりづらい」「この描写の意味が分からない」「登場人物たちはなんでこうしないの?」といった描写の物足りなさについて。
確かに、世界観設定や軍事考証などについては、尺も言葉での説明も限界があるアニメでは少しあっさり気味な部分もあります。
ここを原作ではめちゃめちゃ丁寧に説明してくれます。エイティシックスが反乱を起こさないわけ、ハンドラーとプロセッサーの関係、共和国の歪んだ制度などがよく分かります。
原作勢の多くが「とにかく原作を読んで!」と言うのもこの理由が大きいです。
それについてはこの記事でじっくり書いてます↓
アニメには原作にない描写・演出も
逆に、アニメならではの演出もあります。オリジナルエピソードや、原作の名シーンをより印象的に見せるオリジナル演出は、原作勢にとっては「アニメ制作陣ありがとう!」と言いたくなるものばかりです。
主なものとして、
・ダイヤとレッカの死
原作ではダイヤは「もう死んじゃった」という一言で事後説明。レッカに至っては明確な言及もなく死んでいました。
それはそれでエイティシックスの死のあっけなさを感じさせてくれましたが、二人の散り様を映像でしっかりと見られたことは原作勢にとって嬉しいサプライズでした。
・1話のクジョーの死、6話の花見のシーン
どちらも原作1巻にはなかった描写です。
原作1巻ではストーリー開始時点でクジョーはすでに死んでいて、彼にセリフはありませんでした。
アニメでは世界観の過酷さを最初に視聴者に見せつける人物として、6話の花見ではエイティシックスの儚い運命を笑い飛ばす強い人物として、さまざまな役割が与えられています。
また、6話ではカイエの印象的なセリフもあったりと、彼女の存在をより大きくしていますね。
※追記:花見シーンについては、本編の番外編的な内容になっている原作10巻に少し描写が出てきました。
・4話の戦没者墓地のロケーション、5話のクルミを齧るネズミのカットなど
どちらもエイティシックスにまつわる世界観設定の説明として重要なシーンですが、墓地のシーンはシンが「エイティシックスに墓はない」と語ることの対比になっていたり、クルミとネズミのシーンは「レギオンはエイティシックスの死体から脳回路をコピーしている」という話と重なっていたり、どれもセリフの印象を際立たせてくれます。
・2話のレーナの演説シーン
これは明確に、視聴者に本作の世界観を説明するためのシーンでしたね。レーナの語る言葉は全て正論ですが、それが受講生にまったく響かない空虚さが、共和国の気持ち悪さを余計に際立たせています。
・11話の学校のシーン
シンたちの境遇を見せるいいアニメオリジナルシーンでした。「平和」という習字の言葉や、黒板に書かれた寄せ書きが心を抉りましたね。
名前を呼びあって「はい」と返事をし合う出席ごっこの無邪気さがかえって残酷です……
ここで出てくる町や学校に日本語が多く見られることが気になった人も多いようですが、亡きギアーデ帝国は、アルバが大半を占めたサンマグノリア共和国と違って他民族国家。
おそらくシンたちが訪れた町は、極東民族(カイエと同じ、日本人に近い民族)のコミュニティとして作られた場所だったんでしょう。
こんな感じで、アニメオリジナルの描写はどれもセンスがめちゃめちゃいいんですよね。原作で『86 エイティシックス』の魅力に取りつかれたファンにとっては、どれも作品の魅力をさらに増してくれる嬉しい演出です。
アニメ勢にも『86 エイティシックス』原作を読んでほしい理由3選
1.登場人物たちの心理や背景がより深く分かる
前述のように、『86 エイティシックス』原作は登場人物の心理描写をかなり細かく並べています。
あので、アニメで見せた表情ひとつひとつの裏に込められた感情や、意味深な言い回しの裏に隠された本当の意味がよく分かります。
例えば、アンジュは髪を長く伸ばして常に肌を(特に首の後ろや背中を)見せないようにしていますが、その裏には「アルバの血が入っていて髪が銀に近いので、収容所で他のエイティシックスから壮絶な虐待を受けて背中に(売〇の娘)と切り込まれた傷がある」という背景があります。
アニメでもセリフの端々でそれを匂わせていますが、彼女の心情が明確に分かるのは原作ならではです。
そんな感じで、人間ドラマ面を深く知るなら、原作は欠かせません。
2.安里アサト先生の重厚な文章が硬派な世界観をより奥深く見せる
原作者・安里アサト先生の文章は、かなり独特で硬派です。
戦場に漂う血と硝煙の匂いまで伝わってきそうなほどの重厚な情景描写や、登場人物たちの表情まで見えそうな心情描写を見せてくれます。
そこが人によっては「難解で読みづらい」と感じるみたいですが、じっくり読み込むのに向いている、読みごたえのある作風に仕上がっています。
原作からのファンとしては、この文体を味わう意味でも、原作を一度手に取って見てほしいです。好きな人はとことん好きなはず。
3.アニメの先の展開にも注目
この『86 エイティシックス』原作ですが、この記事の執筆時点で10巻まで続いています。
つまり、アニメのあの結末の後も、人類とレギオンの戦いはまだまだ続くわけです。
戦闘スケールはより大きくなっていって、重厚な読みごたえが長く深く続きます。
この世界観にどっぷり沈んでいくには、原作を追うのがおすすめです。
『86 エイティシックス』アニメと原作の違いについてまとめ
アニメの楽しみ方は人それぞれなので、「アニメ化するまで原作には追いつかない!」と決めている方も多いと思います。
そんな方も、すでにアニメ化された序盤についてはぜひ『86 エイティシックス』原作を手に取って見てほしいです。ただただ原作の一ファンからのお勧めです。
できることなら原作の全巻分アニメ化してほしいくらいなので、2期以降も制作されることを願ってます……
こちらの記事もおすすめ↓