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【感想】『86 エイティシックス』10巻 ファイドの過去が号泣必至……【ネタバレあり】

86―エイティシックス―Ep.10 ―フラグメンタル・ネオテニー― (電撃文庫)

アニメも大きな盛り上がりを見せている『86 エイティシックス』。

その記念すべき10巻目である『Ep.10 フラグメンタル・ネオテニー』は、シンの過去やファイドの出自、さらには「もしエイティシックスたちが迫害されない未来が訪れていたら」というifエピソードなど、短編が並ぶスピンオフ的な巻です。

ネタバレ込みで、その感想をまとめました。

『86 エイティシックス』10巻のあらすじ

サンマグノリア共和国の"存在しない86区"には、人型の豚と定義されたエイティシックスたちが置かれ、日々戦い、死に、使い潰されていた。

そこに新兵として配属された少年兵のシンは、帝国貴種の血を開花させ、異常な戦闘センスを発揮してプロセッサーとして頭角を現していく。

そんなシンの危うさを見た戦隊長アリスは、彼に助言を与え、その首の傷を隠すスカーフを授けるのだった。

そのアリスの死を見届け、その後もいくつもの戦隊で仲間の死を見届けて戦場を渡り歩くシンは、多くのエイティシックスの名前と記憶を抱えながら生きていく。

 

『86 エイティシックス』10巻の感想

シンのたどってきた戦いの旅路が悲しすぎる

9巻まででもたびたび断片が語られてきた「シンが死神になるまでの物語」

それは決して平坦なものではなく、帝国貴種の血を濃く継ぐからとエイティシックス内でも迫害にあったり、自分以外が全滅するという悲惨な結末を何度も見たりと壮絶だったようですが……

こうして実際に物語として見せられると、またかなりきついですね。

最初の戦隊長アリスのような号持ちから、パーソナルネームすら持たない無名のエイティシックスたちまで、皆確かに生きていたのに、結局はシンを残して死んでいく。

朝一緒に食事をした、会話をした者が、夜にはもういない。

感情移入した先から退場していくキャラクターたちを見ていると、読み手のこちらもシンと同じどうしようもない喪失感に襲われます

「何百人もの仲間を見送った」と言葉にするのは簡単でも、それは実際はこんなに残酷で悲しい過程をたどったんだと思うと、世界観の残酷さがより際立ちました。

戦いの中でどんどん心を凍らせていくシンが痛々しいです……

あと、アリスがシンを抱き寄せるようにスカーフ巻くシーンのおねショタ度の強さと言ったらね。挿絵も相まって破壊力が高すぎました。俺はおねショタが大好きなんだ。

個人的には、ジャガーノートの活躍(やられっぷり?)の描写が多かったのも嬉しいポイント。

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ファイドの忠犬っぷりに涙(最強の幼馴染だった)

アニメ『86 エイティシックス』ではレーナやクレナやアンジュを置いてメインヒロインの呼び声も高いファイド。このファイドにフォーカスをあてたエピソードも良かったですね。

シンの赤ん坊時代からの脳波記録をもとに、もとはおもちゃサイズの実験用の人工知能として作られたという犬型ロボットのファイド。強制収容所送りになったシンと再会したくて、勝手にネットワークにアクセスして自分の全データを「スカベンジャー」に転送して戦場に行っちゃう奔放さは笑いました

ファイドが他のスカベンジャーより圧倒的に高度なAIを備えているのも、シンに異様になつくのも、全ては本当の意味でシンの幼馴染だったからなんですね。

アニメ10話・11話ではファイドの最期も描かれましたが、その理由がまさか「シンを撃とうとした戦車型に突進して自分が囮になる」という、普通のスカベンジャーではあり得ない戦闘行動の果てだったとは……

身を挺して主人を守る、まさに「従者」の鑑のような最期は号泣必至です。こんなん泣かないわけない。

この別れがあったからこそ、ギアーデ連邦での再会がまた喜ばしいですね。

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あり得たからこそのifストーリーの切なさ

ラストに収録された「もしエイティシックスたちが強制収容されず、共和国がジャガーノートを本当の無人機として開発成功して、誰も死なない戦場が実現していたら」というifストーリーは、ある意味で今までで一番残酷なエピソードだったかもしれません。

シンのパパが戦闘用AIの開発に成功して、86区では真の意味での無人機が戦っていて。

レーナもアンリエッタも普通の軍人ではなく女子高生になっていて、「アネット」ではなく「リッタ」という愛称で呼ばれるアンリエッタがシンの幼馴染としていい関係になっていて。

そして、レーナとシンは出会っていないという、本来あるべき、だけど読者にとっては少し寂しい世界。

ライデンも、セオも、クレナも、アンジュも、カイエも、シデンも、ダスティンも、アリスも、誰もが平和な日常を生きているからこそ、皆と出会っていない他人同士だという。

この方がよかったのかもしれないけど、彼らが仲間じゃないのは見ていてやっぱり寂しいです。

結局これは夢オチでしたが、レーナや戦友との出会いを思いながら今の現実を受け入れているシンの言葉に救われます。

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アニメにも盛り込まれたサイドエピソードも見どころ

アニメ6話のお花見のシーンや、10話で壊れかけの戦車型を看取ってやるシーンなど、この原作10巻で描かれたストーリーがさっそくアニメに盛り込まれてるのも見どころです。

あれはてっきりアニメオリジナルかと思ってましたが、こうして原作で描かれたことだったんですね。

原作1巻のときは出番が少なめだった登場人物も、個性や内面が掘り下げられているのが好きでした。

 

『86 エイティシックス』10巻の感想まとめ

アニメというタイムリーな話題をリンクしつつ、これまでの『86 エイティシックス』の世界観をより掘り下げて深める番外編として魅力的な10巻でした。

安里アサト氏のあとがきでは「次巻からいよいよ最終決戦に進んでいく」とありましたが、それが楽しみな反面、もっとシンたちの生きる姿を見ていたい気もしてしまいます。

レギオンとの戦いに決着がついたら、その後にシンやレーナが平和に暮らしていく番外編を読んでみたいです。それこそ、この10巻みたいな短編集スタイルで。

 

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