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『86 エイティシックス』のジェローム・カールシュタール准将が嫌いになれない【おじ様】

忘れないでいてくれますか?

原作は電撃小説大賞も受賞した安里アサト氏の大ヒットライトノベル、2021年4月からアニメ放送もスタートして壮絶な話題を呼んでいる『86 エイティシックス』。

その重要人物の一人であり、レーナの上官でもあるジェローム・カールシュタール准将

共和国への諦念を常に纏い、レーナの理想主義にため息をつき、現状の悪さを理解していながら行動しない「疲れ果てたおじさん」キャラです。おそらく彼を好きだという人はあまりいないでしょう。

そんなジェローム・カールシュタール准将ですが、僕は嫌いになれません。彼の言葉は、この現実社会にも当てはまってしまう気がするからです。

※本記事では原作のネタバレ(アニメで描かれた以降のジェロームの話)を含みます。

『86 エイティシックス』ジェローム・カールシュタール准将とは?

サンマグノリア共和国軍の将官で、腐敗しきった軍組織の中では珍しく、対レギオン戦争以前から務める軍人然とした人物。

准将という階級からも分かるように、軍内でも相当に「偉い」人物です。

ちなみに、レーナから「おじ様」と呼ばれているので誤解している人も多いみたいですが、これは「小父様(親の友人などを親しみを込めて呼ぶ呼び方:レーナのパパとジェロームが友人同士だった)」なので、レーナとジェロームは親戚ではありません

 

物語の当初こそ、落ち着いていてレーナにも一定の理解と情を示す人物として描かれるジェローム・カールシュタール准将。

ですが、その実態は「腐りきったサンマグノリア共和国に絶望し尽くしている疲れたおじさん」です。

であるのに、軍人の使命としてその共和国に実直に仕え続けています。思考停止して自分の職務を惰性でこなす、成長も前進もやめてしまった人です。

だからこそ、レーナを次第に疎ましく思い、そのレーナからは失望を向けられ、原作の3巻あたりでレギオンの大攻勢を受けて共和国が滅びかけた際は、国と心中するかのようにライフル片手に絶望的な防衛戦に歩いていきました

これを軍人の使命を果たした立派な最期ととるか、将官として他にもっとできることがあったかもしれないのに自分の諦めを貫くためだけに死地に逃げたと見るか、評価が分かれるところでしょう。

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ジェローム・カールシュタール准将が嫌いになれない理由

世の中は理想のために頑張れない人の方が多数派

先に書いたように、このジェローム・カールシュタール准将は、理想に燃えるレーナとは真逆の人物です。

厭世的でネガティブで、何にも期待していない、希望も抱いていない人。どう見ても一緒にいて愉快な人物ではありませんね。

ですが、僕は個人的に、この人が嫌いになれません。彼の諦念もまた、この世の真理なんじゃないかと思ってしまうからです。

「希望と絶望は、裏と表に違う名がついただけのもの」というようなことを劇中でジェロームは言っていましたが、まさにこの通り。

レーナのようにどんな絶望的な状況でも理想のために頑張れる人もいますが、このジェロームのように、現実の絶望に打ちのめされてすべて投げ捨ててしまうのもまた人間の姿なんだと思います。

というより、人間全体を見れば、いつ叶うかもわからない理想のために本気で頑張れる人の方が少数派でしょう。大半の人にとっては、ジェローム・カールシュタール准将のように諦めきってしまう方がよほど楽なんじゃないでしょうか。

 

「下劣な愚民どもの国家」はフィクションの世界だけの話じゃないよね

ジェロームはアニメ8話で、自身が使えるサンマグノリア共和国を「下劣な愚民どもの国家」と言い放ちます。

確かにサンマグノリア共和国はそう言われても仕方ない大失敗国家だと思いますが、これって、普通に今の現実社会にも当てはまる言葉だと思うんですよね

社会は非効率的で不公平で不平等なことばっかり。SNSでは皆が好き勝手に感情論や極論、陰謀論を叫んで意見の違う人と罵り合って、ゴシップ報道機関と化したメディアがさらにそれを煽る。

海外を見ても、色んな主義思想に染まった人たちが、自分たちの都合のためにグチグチボコボコやりあって。

ザ・衆愚政治じゃないですか。正直このままいけば、サンマグノリア共和国を笑えませんよ。

SNSは便利で面白いですが、それと同時に嫌な情報も半ば強制的に目に触れさせることになります。

そういうものを見るたびに感じる不快感や「世の中こんなもんか」という諦めの感情が、ジェロームの感じている諦念だと思えば、彼に少し共感できませんか?

 

「ままならない現実」の象徴こそがジェローム・カールシュタール准将

現実もディストピアSFアニメのことを笑えないくらい酷い一面があって、しかもアニメみたいにそれに真っ向から立ち向かえるヒーローやヒロインは滅多にいません。

いたとしても、そういう存在がフィクションの世界みたいに世界の問題をどんどん解決していい方向に導いてくれるようなことはありません。世の中、悪い人の方が力が強いようにできてますからね。

そんなままならない現実の中にいる僕たちにとっては、ジェローム・カールシュタール准将の姿こそが自然なことなんじゃないでしょうか。正直そう思ってしまいます。レーナみたいに皆が頑張れたらその方がいいんでしょうけどね。

 

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