ニートの兄妹とその家族、友人たちの日常をまったり描いた漫画『働かないふたり』。
すでに20巻以上が刊行される人気シリーズで、ニート漫画の代表的な作品のひとつになっています。
そんな『働かないふたり』ですが、主人公のニート兄妹、守(まもる)と春子(はるこ)に対して批判的な声もあるみたいですね。
「ただ働くのをサボって遊んでるだけ」「世の中を舐めて甘えてる親不孝者」みたいな。
ではそもそも、『働かないふたり』はただのわがままなニートの物語なんでしょうか?考えてみました。
『働かないふたり』のふたりはガチで働かない
まず、この世にニート漫画は数多くある中で、なぜ『働かないふたり』の2人が批判されるのかを考えてみましょう。
それはおそらく、というか間違いなく、本作の作風にあります。
大抵はニート漫画って「元々は働いていたけど何らかの理由で社会生活をお休みしてる人」を描いていたり、「苦労の末にニートになってしまった作者の体験記」を綴ったエッセイ漫画だったりすることが多いです。
それに対して『働かないふたり』は、その気になれば働けるけど自らの意思で能動的に(?)働いていない守と、人見知りが激しすぎて外が怖くて働かない春子のお話。
2人とも「生活費を貯めて自らニートになった」とか「どうしても働けない理由がある」とかではなく、ガチでただ働かずパパに養われ、ママの家事を手伝うくらいしかしてないニートです。
だからこそ「真のニート漫画」とも評されてるわけですが、この点が気に食わない人はとことん気に食わないんでしょう。
「俺は真面目に働いてるのにこいつら遊び暮らしやがって……許せねえ」という感じなんでしょうか。
守と春子はなぜ働かない?
『働かないふたり』の春子の「弱さ」は許されないのか?
自らニートになる決意をした兄の守とは違い、妹の春子は「外の世界が怖いから働かない」というタイプ。どちらかというと「怖くて働けない」という感じで、一応は理由があると言えますね。
高校までは普通に通ってたみたいだし、その後についてははっきり語られてないけど、おそらく高校を卒業してからも一度も働いた経験はないんでしょう。
ふつうの買い物とかが困難なレベルで極度の人見知りだったり、「少し発達障害ぎみなのかな?」とネット上のレビューで語られることもあります。
確かにそうなのかもしれません。服屋さんで店員に話しかけられただけで顔面蒼白になって逃げ出したり、知り合う前の倉木さんに挨拶されてダッシュで逃げたりするほどですからね。そういう社会不安は発達障害の傾向のひとつとしてあるそうです。
ですが、春子の言葉や心理に共感できる人も多いと思うんですよね。程度の差はあれ「店員に話しかけられるのが怖い」「知らない人と話すのが怖い」と言う人はいるだろうし、苦手過ぎてそういう機会に出くわさないよう動く人だっているでしょう。
春子は「よく知らない人と接する」ことが度を越して苦手で、だけど病気とされるほどじゃないからこそ、あの状態になっているんじゃないでしょうか。
普通には働けないけど、世間から「働かなくていい人・働けないのも仕方ない人」とまでは見なされないからこその苦しみもあると思います。
それでも、優しい兄や友人、何だかんだで見守って世話してくれる両親に囲まれることで楽しく生きることができてるんじゃないでしょうか。
世の中は基本的に怖いところで、誰もがその怖さに耐えられるわけではありません。春子のような「社会から守られるべき弱者」とまでは見なされないけど確かな弱さを抱えた人を、「働いてないと甘え」と決めつけて批判するのは不寛容が過ぎるんじゃないでしょうか。
何より、いつか自分が何かの理由でそういう立場に立たされたときに、誰からも助けたり共感したりしてもらえなくなりますよね。
『働かないふたり』の守はモラトリアムを生きている
一方で、守はその気になれば明日からだって働けるんでしょう。実際、以前はアルバイトをしていて、貯めたお金で世界をバックパック旅行していたことが明かされています。
旅先の遠い異国で「やっぱり家が一番」だと悟ったことから今のニート生活に突入して「いけるところまで行ってやる」と冗談めかして決意を語ったりもしていますが、「働けるなら今すぐ働け!」と思う人も多いみたいですね。
守はいわば「モラトリアム(社会的に大人になるための猶予期間)」を生きてるわけですが、こういう人、海外にはけっこう多いみたいですね。何をするでもなく「ただ自由人として思いのままに色んなことをしてみる」という期間。
正直言って、大学生とかでもまともに勉強せず遊び惚けてるだけの人もたくさんいる中で、守の生活の何がそんなに批判されないといけないのかと思います。
親の金で大学行って授業サボって遊んでる人より、結果的に困ってる人を助けまくってる守の方がよほど社会貢献してるでしょうに。
それに、究極的に言えば「家庭の問題」なんですよね。守も春子も。
例えば2人が親に暴力振るって金むしり取ってるとかなら刑事事件だけど、親とも仲良くして家事を手伝ったりして、2人の状態を両親がひとまず良しとしてるなら他人が口出す道理はありません。
『働かないふたり』から勇気をもらおう
インターネットやSNSの功罪もあり、世の中が殺気立って不寛容になりがちだからこそ読んでいて救われる部分がある『働かないふたり』。
逃げてもいい、弱くてもいい、家庭環境が許すなら後ろめたさを感じずにのんびり過ごしてもいいと思わせてくれます。世の中みんながこの作品の登場人物たちくらい優しくなればいいのに。
疲れたときや「自分は駄目な人間なんじゃないか……」と思った時は、『働かないふたり』から勇気をもらいましょう。