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『86 エイティシックス』2巻のネタバレあり感想 シンたちの「生きる」ための戦いの幕開け

86―エイティシックス―Ep.2 ―ラン・スルー・ザ・バトルフロント―〈上〉 (電撃文庫)

ショッキングな世界観、衝撃的なストーリー、カタルシスに満ちた驚きの結末によって、ラノベ界で絶大な話題を集めた『86 エイティシックス』1巻。2021年春にはアニメ化もされて大きな反響を呼びましたね。

その続き、シンたちの旅立ちのその後を描いたのが、2巻目となる『86-エイティシックス Ep.2 ラン・スルー・ザ・バトルフロント<上> 』です。

完璧な1巻の続きは、「これ以外の続編はあり得なかっただろう」と思わせる、長い長い戦いの始まりを描いた内容です。ネタバレありで詳しくレビューします。

『86 エイティシックス』2巻のあらすじ

特別偵察任務の果て。ついに息絶えようとしていたシンたちは、バックアップ機体へと意識を移したレイに救われ、レギオン支配域の向こう、ギアーデ連邦へとたどり着く。

ギアーデ帝国を革命によって滅ぼした末に成立したこの国は、まだほんの少年少女であるシンたちエイティシックスたちを保護し、サンマグノリア共和国の非道な迫害政策を知って憤る善良な国家だった。

平和な生活を与えられようとしたシンたちだったが、共和国で未だ戦うレーナを思い、さらに「戦いの果ての最後の場所まで行き着く」というエイティシックスの矜持を守るために、再び戦場に戻る。

ギアーデ帝国の皇帝一族の血を継ぐ少女フレデリカと出会い、新たな機体「レギンレイヴ」を与えられ、レギオンとの過酷な戦いに臨むシンたち。

しかしあるとき、かつてスピアヘッド戦隊の仲間を屠った超長距離射程の「電磁砲型」レギオンの奇襲を受け……

 

『86 エイティシックス』2巻の感想(ネタバレあり)

シンたちの「生きる」という新たな戦いの幕開け

前作1巻が「完璧」と名高い評価を受けた『86 エイティシックス』。そのためこの2巻以降に関しては、悪く言えば「蛇足」と捉える方もいるみたいですね。

ですが、僕は個人的にはこの2巻以降も十分に面白いというか、むしろ1巻を壮大なプロローグとした上で、シンたちの戦いを描く物語としてはここからが本番だとさえ思えます。

1巻でサンマグノリア共和国にいた頃は、シンたちの戦いの人生には明確な終わりが見えていました。

最後まで戦い抜き、死んでいった仲間たちの記憶と機体片とともに、特別偵察任務で行き着く果てで命尽きる。それだけのためにシンたちは戦って生き抜きました。

しかし、そこではまだ命が終わらなかったからこそ、シンたちはもっと壮大でもっと苦しい戦いに臨まないといけなくなります。それが今回から描かれる「生きる」という戦いです。

自分がこれから何年も何十年も生きるなんて想像もしていなかったシンたち。彼らとって「生」とは明確な終わりが見えているのが当たり前で、「人はいつか死ぬその日まではひたすら生きるものだ」という概念そのものを理解できないわけです。

戦うのが当たり前。生きるということは戦うということ。そんなアイデンティティを形成してしまって、そのアイデンティティに縋って戦い続けなければ生を維持できない。9年の隔離政策と4~5年の軍役の中で、シンたちはそんな「エイティシックス」という生き物になってしまったんですね。

「これからもずっと生きていく」という途方もない事実をおぼろげには理解しながらも、まだそれがどういうことなのか実感を掴めていないシンたち。この2巻では、彼らはようやくスタート地点に立とうとしているかどうか……という段階でした。

シンがかつてレーナに言われた「退役したら何かやりたいことはありますか?」「今から考えておいてもいいかと思いますよ」という言葉の意味を、本当の意味で考えることができるのは、まだまだ先です。

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情のある軍隊と無情な戦場と非道な社会と

サンマグノリア共和国は一ミリも擁護できない正真正銘のクズ国家でしたが、ギアーデ連邦はそれと比べると、遥かにまともですね。比較するのも連邦に失礼でしょう。

まず、連邦のフェルドレスは重装甲重火力で搭乗者の生存性をちゃんと重視してるし、シンたちの「レギンレイヴ」は高機動型とはいえ装甲も性能も「ジャガーノート」とは比較になりません。脱出装置もついてるし。

連邦軍の組織としての思考もかなり常識的で、人員を大切にするし、遺族年金などの福祉制度もあるし、シンたちの直属の上官グレーテ大佐から方面軍のトップ層に至るまで、至極まともな倫理観を持っています。一様に「まだ子どものエイティシックスを激戦区に立たせるなんて大人として心苦しい」と思ってくれています。

それはかなり救いになる部分なんですが、だからといって『86 エイティシックス』の世界観が甘っちょろくなったかというと一切そんなことはなし。いくら軍隊が倫理的にまともな組織でも、そもそも戦場という場所が倫理もク〇もない場所なんだから仕方ありません。

ギアーデ連邦だって余裕があるわけではありません。いくら人員を無駄死にさせない作戦を立てようと、当然のように毎日戦死者は出ます。指揮官たちも苦渋の判断として十中八九死ぬような命令を下すこともあります。

国がどうとか関係なく「戦場とは残酷な場所である」という事実は、なまじ背景にいる国家がまともな2巻以降の方が生々しく実感させられますね。

さらに、ギアーデ連邦がいくら善良でも、やっぱり人間社会ならではの悪意があるのが印象的です。

異質なエイティシックスを「戦闘狂い」と非難したり、シンたちに同情の手紙を大量に送りつける「善意の市民たち」がいたり。連邦の報道もシンたちに過剰に同情的だったりと、「可哀想な人たちに寄り添う私たちって優しい~!」的なウザさが垣間見えますね。24時間テレビみたい。

どんなにまともな体制の国家でも、人間による社会である時点で、非道だったり無神経だったりする部分があるのがリアルです。徹底的に腐ったサンマグノリア共和国は諦めがつくけど、このギアーデ連邦みたいな半端にいい国の中に闇がある方が読んでてキツいですね。

 

ミリタリーSFとしてのハードさはより濃くなった

これは僕個人の意見ですが、「多脚ロボットで無人兵器と戦うミリタリーSF」としての濃厚さ・重厚さは、この2巻からの方が1巻より上だと思います。

というのも、『86 エイティシックス』1巻って意外と戦闘描写は少なめなんですよね。アニメでも「戦闘シーンが少ない」っていう感想がけっこうありましたが。

1巻はどちらかというと「救いのない世界での少年少女たちの日々」「最前線の少年と後方の指揮官の少女による灰色のボーイミーツガール」的なものがテーマでした。いわばセカイ系に近かったわけです。

ですが、2巻からは本格的に「戦術・戦略を駆使して人類がどうやってレギオンに立ち向かうか」という戦争ものになりました。自然と戦闘描写も増えます。全体の半分くらいは戦いだったんじゃないかな。

この傾向は巻を重ねるごとに増していく(唯一、7巻だけは人間ドラマ回ですが)ので、ミリタリーとかロボットものが好きな人は、むしろ2巻以降こそを読むべきでしょうね。

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フレデリカの存在意義とは?

ストレートな「のじゃ語尾ちびっ子キャラ」だったフレデリカですが、彼女も当然ながらただのマスコット扱いではないでしょう。

何より、「皇帝一族の生き残り」という立場が無二の存在意義を担ってます。この血筋がどう重要になっていくのかは以降の巻を読めばわかるとして、まず彼女の物語上の役割は「エイティシックスと対極の立場で同じ呪いを背負っている」ということなんですよね。

エイティシックスたちは、ただエイティシックスであるというだけで迫害を受けてきました。被害者の側です。

それに対してフレデリカは、ただ皇帝一族の生き残りだというだけでレギオン暴走やこの戦争の罪を背負わされかねない存在です。つまり、血のせいで「自分は何もしていないのに、生まれながらに加害者」の側に立たされたわけです。

共和国のアルバであるレーナやアネットもある意味そうですが、フレデリカは彼女たちの比ではありません。何せ、戦争が始まったときはほんの赤ん坊だったんですから。罪も何もあるわけがありません。でも、世間はそうは見てくれないでしょう。

フレデリカはそういう存在とした上で、今後の彼女の立場や役割を見ていくと、また発見があるかもしれませんね。

 

『86 エイティシックス』2巻のネタバレあり感想まとめ

ひとつのテーマを貫いた1巻と比べると世界観やストーリーが一気に広がり、物語としてより多彩さを増した第2巻『86-エイティシックス Ep.2 ラン・スルー・ザ・バトルフロント<上> 』

確かに1巻はあの一冊でも素晴らしい完結を見せていますが、この2巻からの戦いを見届けないのはもったいないです。ぜひ手に取って見てください。

 

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