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『86 エイティシックス』シンはなぜレーナに心を開いたのか?その心理を考察【ネタバレあり】

86―エイティシックス― (電撃文庫)

アニメ化もされて話題沸騰中の、安里アサト氏によるライトノベルシリーズ『86 エイティシックス』。

そのW主人公となっているのが、エイティシックスの少年シンと、ハンドラーの少女レーナです。

原作1巻(アニメ1期)ではスピアヘッド戦隊の戦いと並行して、シンとレーナの関わり合いもストーリーの主軸となっていましたね。

最初こそレーナの存在をまったく意識していなかったシンですが、終盤には「先に行きます、少佐」と言葉をかけるほどに彼女を信頼します。

シンはなぜレーナに心を開いたのが、どのような心境の変化があったのか、考察してみました。

最初はレーナにまったくの無関心だったシン

原作1巻(アニメ1期)の前半では、シンは驚くほどにレーナに無関心でしたね。

なにせ、レーナの着任の挨拶を受け取った直後にその話題を振られても何のことか分からずきょとんとしていたほど。心の底からレーナをどうでもいいと思っていたようです。

戦隊長の務めとして受け答えはするものの、その口調も声色もきわめて事務的で無感情なもの。報告書のことでレーナから小言を言われ、その話を切り上げようとしたのにカイエが話題を広げてしまったときは露骨に面倒くさそうな顔をしていました。

もちろんエイティシックスたちの現状を考えると仕方ないというか、当たり前のことではありますが、シンはレーナに(というよりそもそも戦隊の仲間たち以外のことに)恐ろしいほど興味がなかったと分かります。

 

シンにとってレーナの何が「特別」になったのか?

「レーナに名前を聞かれたこと」で一目置いた?

その後もレーナと交流を続ける(続けさせられる)シンですが、口調はずっと事務的。

他のエイティシックスたちが好奇心でレーナに絡みにいったり、彼女のハンドラーとしての指揮能力にライデンが関心したりする場面もある中で、シンだけはガチで心の底からレーナのことをどうでもいいと思っている様子が続きます。

クレナは露骨にレーナへの敵意を語ったりもしますが、シンはそれすらない。「好意の反対は無関心」を体現していますね。

そんなシンのレーナへの反応が変わったのが、アニメだと4話で描かれた「レーナがスピアヘッド戦隊の全員の本名を聞いたこと」です。

ここでようやくシンはレーナに一目置いた、少なくとも「今までのハンドラーとは違う」と認めたと思われます。

 

レーナが「兄のレイを覚えてくれていた」ことが決定的に

シンのレーナへの印象をさらに決定的に変えたのが、彼女がシンの名前を聞いて「ショーレイ・ノウゼンという方をご存知ではありませんか?」と尋ねたとき。

レーナが過去にシンの兄レイと会っていたと知ったことで、シンは彼女に対して明らかに心の距離を近づけました。

では、なぜレーナがレイを憶えていたことでシンは彼女への態度を変えたのか?

それは、シンは「レギオンと化したレイを葬って、自分も行き着く果てで死んで、それですべて終わり」だと思っていたからではないでしょうか。

自分が死ねば終わり。そう思っていたところへ、レーナという「レイを憶えてくれていた人、これからも憶えたまま生き続けてくれるかもしれない人」が現れた。

だからこそ、シンはレーナをこれまでのハンドラーとは違う目で見て、一緒に死に行くスピアヘッド戦隊の仲間ともまた違う存在として扱い始めたんだと思います。

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最後にはレーナの記憶に自分たちの生きた証を託したシン

レーナがレイを憶えていてくれたことを知って、シンは明らかに自分の心の内も含めて多くのことを彼女に話すようになります。

単にレーナから尋ねられたことに答えるだけでなく、自分から積極的に話すようになりましたよね。

「黒羊」「羊飼い」について語るときも、自身の私見を交えたり、常にレギオンの声が聴こえることについて「もう慣れました」と微苦笑しながら答えたりと、明らかに感情を見せています。

革命祭の前には、花火のことを憶えている話を自分から語りました。

そして革命祭の夜には「少佐は俺たちのことも、忘れないでいてくれますか?」と、明らかにレーナを特別視している言葉を伝えます。

最後には「先に行きます、少佐」と伝え、彼女もまた自分たちの戦友だと明確に認めました。同じ場所に共に並んでいないと「先に行く」ことはできませんからね。

さらに、隊舎の談話室の引き出しには、レーナに当てた手紙も残していました。「花でも供えてくれませんか」というお願いは、レーナならいつかシンたちの行き着いた場所までたどり着けると信じていたからこそ出たものでしょう。

ここまで来るともう、レーナはシンにとって唯一無二の特別な存在ですね。自分たちが生きたということを、自分たちの想いとレーナに記憶してもらう。レーナならそれを任せられるとシンは考えたのでしょう。

 

シンもまた「誰かに連れて行ってもらいたかった」のか?

アニメではクレナが少し語っていましたが、シンがレーナに自分たちの生きた証を託したのは、「寂しかった」からなのかもしれませんね。

シンは死んでいった戦友たちの名前を機体片に残し、彼らが生きたことを自分の記憶に留め、戦い続けていました。最後には兄レイの名前も刻み、記憶の中で隠れていたレイの顔や声も思い出して、戦友たちと一緒に連れていきました。

ですが、それもシン自身が死ねば全て終わりです。大勢を連れて行きながら、しかしシンを連れて行ってくれる人はいないはずでした。

そんなときに、5年も前に戦死したレイを憶えてくれているレーナという存在が現れた。レーナは制約だらけの状況で、限界がありながらも精いっぱいに自分たちと一緒に戦おうとしてくれている。

だからこそ、シンはレーナなら「自分を連れて行ってくれる」と期待したのでしょうね。

レーナの記憶の中に残るというかたちで、シン自身もまた、生きた証をこれからも残せる。そんな希望が見えたら、希望を感じさせてくれた相手に心を開くのも理解できます。

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『86 エイティシックス』はレーナに対するシンの心の変化も見どころ

ストーリー後半まではあまり感情の見えないシンですが、こうして振り返ると、明確な転換点や理由があってレーナとの距離を縮めているんだと分かりますね。

『86 エイティシックス』はミリタリーSF作品であると同時に、シンとレーナの物語を選んだジュブナイルストーリーでもあります。

原作では2人の心理がより詳しく深く描写されているので、アニメ派の方は小説の方も是非手に取って見てください。

 

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